第26話

 がちゃ、と。

 扉が開く音が響いた。蒼斗は音がした方を見る。

「あら?」

 楽しそうな声。戸口に立っていたのはユカリだった。仮面に覆われて顔は見えないが、その少し弾んだ口調と声からして、きっとその顔はにこにこと楽しそうに笑っているのだろう。

「随分と懐かしい雰囲気の部屋ねー」

 さっきと変わらない楽しそうな口調で言い、机を一つずつチェックし、ゆっくりと……

 ゆっくりと、蒼斗の隣の席で脚を止めた。蒼斗がちらりと机を見ると、そこには紫色のテープが貼られていた、つまりはそこが彼女の席、という事だ。

 ユカリは、ゆっくりと椅子を引いて、そこに座る。

「君は……」

 蒼斗は、ユカリを見て言う。

「一体、どんな……」

「……そうねえ」

 ユカリは、仮面を被っている頭を軽く傾けた。

「色々とあるけど、一番の『罪』は……」

 ユカリは、何処か愁いをおびた口調で言う。

「人を……」

 ユカリが言う。

「人を、殺した事よ」

「……っ」

 蒼斗は息を呑む。

 ユカリは、その蒼斗の息を呑む声を聞いて……

 くす、と。

 何処か、楽しそうに笑った。

 蒼斗が、それはどういう意味なのか、と聞こうとした時だ。


 がたんっ!!


 大きな音がした。さっき蒼斗やユカリが入って来た扉が、乱暴に開けられる音だ。振り返るとそこには、ミドリが立っていた。

「……アオ……ユカリ……」

 ミドリは、じっと……

 じっと、蒼斗とユカリを見ていた。そしてそのまま、ゆっくりと……

 ゆっくりと、部屋に入って来る。

 そして。

「アオ……」

 ミドリが、じっと……

 仮面に覆われていても、はっきりと解る鋭い目で蒼斗を睨み付けていた。

 そのまま、だっ、と。

 ミドリが走り出す。


「ちょっと、何を……」

 走り出したミドリを遮る様に、ユカリがばっ、とその前に立ちはだかる、だけど。

「五月蠅い!! 退けっ!!」

 怒鳴り付けながら、ミドリはユカリをどんっ、と突き飛ばし、そのまま蒼斗に飛びついて胸ぐらを両手で掴んで、椅子ごと押し倒した。

 がらんっ!! と大きな音がし、蒼斗はその場に椅子ごと仰向けにひっくり返った、がつんっ、と後頭部を床にぶつけたけれど、仮面のせいで痛みは感じない。

 そのままミドリは、蒼斗の胸の上に馬乗りになり、仮面に覆われていない蒼斗の胸に拳を叩きつけた。

「うぐっ……」

 胸板を殴られ、蒼斗は思わず声を上げていた。

 だがミドリは容赦せず、蒼斗の胸をさらに殴りつける。

「ぐっ!! がっ!!」

 蒼斗は声をあげるが、ミドリはさらに容赦無く蒼斗を殴りつけ、そして……

 そのままミドリは蒼斗の両肩を掴んで、仮面ごと頭を床に叩きつける。

「くっ……この……」

 蒼斗はどうにかしてミドリを押しのけようとするけれど、ミドリは容赦無く蒼斗の頭を叩きつけ、胸板をさらに殴りつける。

「てめえ……!!」

 ぎりり、と。

 仮面越しでも、はっきりと聞こえるくらいに強く、ミドリが歯ぎしりする。

「この……人殺しめ!!」

 ミドリが言う。

「人殺し……って、一体何の……」

 蒼斗はミドリに向かって言う。

「とぼけてんじゃねえよ!!」

 ミドリは怒鳴り付けた。

「てめえだろ!? てめえなんだろう!?」

 ミドリが叫ぶ。

「一体、何の話だよ!?」

 蒼斗は怒鳴り付ける。

「とぼけんな!!」

 ミドリは怒鳴り付ける。

「このイカれた『ゲーム』の主催者は、お前なんだろう!?」

 ミドリは叫んだ。

「……は?」

 蒼斗は、思わず問いかけていた。

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虹色の迷宮 @kain_aberu

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