第二章

第22話

 誰も、何も言わない。

 モニターにも、もう何も映ってはおらず、音声も聞こえない。

 蒼斗達は、全員。

 全員、その場にやや俯いて立っている事しか出来なかった。

 沈黙が下りる。

 蒼斗は、黙って。

 黙って、仮面のスリット越しに見える、薄汚れた床の上を見ていた。

 あのキイロ、黄島悠斗に関しての映像。あの中で……

 あの中で、悠斗に足を折られていた人物。それは……

 それは……

 蒼斗は目を閉じる。

 そんな……

 そんなバカな事が……ただの……

 ただの、偶然では無いのか?

 蒼斗は、自問する。だが……

 だが。

 偶然とは……

 偶然とは、とても……

 解らない。

 蒼斗には何も。

 何も、解らない。

 何故、今になって、あの黄島悠斗が、あんな風に……

 あんな風に、殺されねばならない?

 そして。

 彼を……

 彼を、殺した人間は……?

 一体……

 一体、何者なのだろう?

 蒼斗は、また目を閉じた。


 ざざ……


 目を閉じ。

 闇の中で、思考を巡らせていた蒼斗の。

 そして。

 その場にいる全員の耳に、その音が響いた。

 ノイズの音、つまり……

 つまりまた、スピーカーから、例の繋がれた音声が聞こえる、という事だ。

 そして。

 蒼斗は正面を見る。

 ガラスで仕切られた、小さい部屋の中、その奥の壁一杯に設置された大きなモニター、その前にはスチール製のデスクと、安っぽいパイプ椅子がある。その上に乗っている細長い棒の様な何か、遠くからでは何なのかは解らないが、どうやら何かで固定されて、デスクに取り付けられているらしい、電気スタンドか何かだろうか?

 そして。

 モニターには、いつの間にかまたしても、人の姿が映っていた、今度は、あまりそういう事に興味の無い蒼斗でも、一度は名前を聞いたことがある映画俳優だ。

 そいつが口を開く。

『第二の』

 映像が切り替わる。

 今度は、やはりこちらも男性俳優だ、有名な学園ドラマに出ていたのを、蒼斗は知っている。

『ゲームです』

 その俳優が言う。

 やがて映像が切り替わり、次に映ったのは女性、見た事は無いが、一般人なのか、有名人なのか、蒼斗には解らない。とにかく彼女が口を開く。

『目の前の』

 すぐにまた次の映像、今度は白髪頭の老人だ。

『部屋の中に』

 すぐにまた映像が切り替わり、今度は派手な若い男。

『入って』

 また別の映像。

『下さい』

 また映像が切り替わる。

『その中にある』

『机に』

『座って』

『そこに』

『置かれた』

『マイクに』

『向かって』

『貴方の』

『罪を』

『大声で』

『告白して』

『下さい』

 いくつもの声と映像が、次々と映し出されて、そういう言葉を紡ぎ出す。

「……あの中で……?」

 ミドリが言う。

「ま マイクってのは、あの、デスクの上に、置いてある奴か?」

 オレンジも、不安そうな口調で言う。

「そうみたいだな」

 アカが頷いて言う。

 蒼斗はもう一度、部屋の中に置かれたデスクの上を見る。細長い電気スタンドのようなものだと思っていたけれど、そう言われて改めて見てみれば、確かにあれはマイクだ、マイクスタンドに取り付けられたマイクが、机の上に置かれているのだ。

 あれに向かって……

 罪を、告白する?

 蒼斗は……

 蒼斗は黙って。

 部屋の中のデスクと、その上のマイクを見ていた。

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