第20話
ざ、ざざ……と。
耳障りなノイズ音が響き、映像が切り替わる。
ややあって、映し出されたのは、何処かの薄暗い路地裏の様な場所だった。
『おい、お前!!』
声がする。
さっきのインタビューの中で答えていた、あの爽やかな口調や声とは打って変わって、ドスの利いた低い声にくわえ、他人を酷く見下して、バカにしている口調ではあったけれど、それは……
それは間違い無く、あの黄島悠斗の声であった。
『俺はお前に言ったよなあ?』
黄島悠斗が、酷くバカにした口調で言う。
全員が、画面を見ていた。
何処かの路地裏、恐らくは、何処かの街の繁華街だろう、色とりどりなネオンが輝く建物は、多分ゲームセンターだろう、どうやらこの映像は、その店先に設置された防犯カメラの映像らしかった、多分出入り口の扉の上に取り付けられているのだろう、上からの映像の中に映っているのは、三人の、多分十代半ばの少年達だ。
そしてそのうちの一人は紛れも無く……
紛れも無く……
「……悠斗……」
蒼斗は、小さく呟く。
そう。
それは間違い無く、黄島悠斗だった、右肩に金属バットを担いで、ガムをクチャクチャと噛みながら、小馬鹿にしたような顔で笑っている。
隣にはもう一人、同年代の少年がいて、スマートフォンで何かを撮影していた。
その二人の視線の先にいるのは、一人の少年だった。
恐らくは悠斗と同年代の、十代の半ば、という年齢の少年だろう、カメラの角度が店の前の道路を向いているせいで、はっきりとその顔は見えないが、多分入り口横の壁に背中を預けて座り込んでいるのだろう。
だが……
彼が自分の意志で、そんな場所に座っている訳では無い、という事は、だらん、と力無くアスファルトの上に投げ出されている足を見れば、一目瞭然だった。
悠斗がその少年に向かって、相変わらずの小馬鹿にした口調で言う。
『お前は走るのが遅いから、今日の体育祭には出るなってよお?』
悠斗が言う。
その少年は何も言わない、きっとあちこちを殴られたり蹴られたりした後なのだろう、ぐったりとしているのが、カメラの映像越しでも解った。
『それなのに、なんでお前、今日来たんだよ?』
映像の中で、黄島悠斗が言う。少年がぼそぼそと、か細い声で何かを言ったけれど、それはあまりに小さくて、カメラでは拾えなかった。
だが悠斗には、十分に聞こえたらしい、その少年の言葉に、悠斗はふんっ、と鼻を鳴らした。
『全員参加なんて知るかよ、良いか?』
悠斗は少年に歩み寄って、右手を伸ばし、髪の毛を乱暴に掴んでぐいっ、と頭を持ち上げた。
『てめえは走るのが遅い、てめえがみっともなくドタドタ走ってるところなんてな、誰も見ちゃいないんだよ』
悠斗が言う。
蒼斗はその映像を観ながら、ぎゅっ、と拳を握りしめた。
『みんなが見てんのはこの俺なんだ、お前なんか誰も見に来てない、みっともない走りで、俺のチームが一位になる邪魔を……』
ぎりり、と。
悠斗が歯ぎしりするのが聞こえた。
そして……
『するんじゃねえっ!!』
ごん、と。
鈍い音がする。
悠斗が、髪の毛を掴んだ少年の頭を、背後の壁に叩きつける音だった。
「……酷いわね」
ユカリが吐き捨てる様に言う。
「こんな事をする人間だったのか……」
アカも、軽蔑した様に言う。
蒼斗はそれを聞きながら、何も言わなかった。
そして……
『ああ、そうだ』
映像の中で、黄島悠斗が冷ややかな口調で言う。
『どうせお前はさあ、大して早く走れないんだし……』
くくく、と。
黄島悠斗が笑う。
『どうせ今回みたいに、チーム対抗のリレーとかになると、俺や他のみんなの足を引っ張るだけなんだしよお』
悠斗が、ヘラヘラと笑った。
そして。
『そんな奴には、『これ』……』
悠斗が言いながら、手に持ったバットで、少年の右の足首を軽くつついた。
『要らねえよな?』
映像の中で、少年がぎょっとした様に身体を震わせるのが、はっきりと……
はっきりと、全員に見えた。
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