第19話

 モニターに映ったのは、一人の少年。

 大学生、くらいだろうか? 金色に染めた髪に、耳にキラリ、と光るピアス、目は鋭く釣り上がり、あまり良い雰囲気は与えないが、整った顔立ちのおかげで、それはあまり感じ無い。

 映し出されているのは胸から上程度だが、むき出しの肩や腕はすらりとしている、身につけている服は、よくよく見れば、陸上のユニフォームだった。

 そして。


『黄島悠斗(きじまゆうと)』


 モニターから声がする。

 やはりそれも、でたらめにいくつもの単語をかけ合わせた音声だった。


『黄島悠斗』

 モニターからの声が言う。

『十八歳、男性』

 声が言う。

 蒼斗は……

 そして、他の五人も。

 黙って、そのモニターを見ていた。

『とある大学に通う一年生』

 モニターからの声が言う。

『幼い頃から、人よりも足がとても速く、小学生の頃から既に、その才能を十二分に発揮、町内会のマラソン大会で優勝した頃から、その才能を徐々に伸ばしていく』

 モニターからの声が言うのと同時に、ぱっ、と映像が切り替わる。

 それは……

 それは、明らかに、何処かのホームビデオの映像だった、今し方モニターに映っていた少年、つまりは黄島悠斗(きじまゆうと)と思われる、小学生くらいの男の子が、何処かの運動場を、同じ年頃の少年達と一緒に走っている。

 その中で、黄島悠斗は誰よりも早く、どんどんみんなを引き離して、あっという間にゴールのテープを切ってしまった。

 黄島悠斗と思われる少年は、その瞬間に両手を大きく挙げてガッツポーズをして見せた。

 映像からは何も聞こえなかったけれど、周りからは拍手と歓声が上がっているらしい。

『中学でも陸上部に所属、一年生の時点で既に、全国大会への出場権を手に入れる』

 モニターからの声が言う。やはり沢山の声を順番につなぎ合わせた音声だ、不快だったが、それでもモニターから、誰も目を離そうとはしない。

 やがてモニターの映像が切り替わる。

 今度は、多分中学生になった黄島悠斗の映像だろう、さっきとは違って、きちんとしたコースを走っている姿が映っている、そこでもやはり、黄島悠斗は、同年代の少年達を呆気なく引き抜いて、簡単にゴールしてしまう。

 やはりまた嬉しそうにガッツポーズをする悠斗。

 やがて映像が切り替わる。


『僕は、決して自分に才能があるなんて思っていません』


 映ったのは、汗だくの悠斗だった。多分さっきの競技の後に撮影したインタビュー映像か何かだろう。


 『たまたま走る事が好きで、どうすればもっと速く走れるのかと考えて、その為の努力をしてきたのが、今の僕の姿です』


 映像の中の悠斗は、そう言った朗らかに笑う。


『ですから僕は、自分が特別だとは思っていません、人は……』


 悠斗が言う。


『好きな事を見つけ、それを極めようと努力すれば、いくらだって人生を変える事が出来ると思います』


 それを聞きながら、蒼斗はじっと。

 じっと、悠斗の顔を見ていた。

 確かに、こんなインタビューを受けていた。そう、確かに……

 確かに、『あいつ』は……

 『あいつ』は……

 だけど。

 蒼斗は、ぎゅっ、と拳を握りしめた。


 やがて映像がまた切り替わり、さっきの悠斗の顔がまた映る。

『自信に溢れる才能、それに裏打ちされた実力、整った容姿、朗らかで明るい笑顔』

 モニターからの声が言う。

『多くの者達が、彼、黄島悠斗の虜となった』

 そうだ。

 蒼斗は頷く。

 ちらりと隣を見る。

 ユカリが、こちらを見ていた、特に興味も無さそうな様子で、少しだけ安心している自分がいる事に気づいて、蒼斗は首を横に振る。そんな蒼斗を見て、彼女は何を思っているのか、ただ無言で、こちらにひらひらと手を振って来ただけだ。

 他のみんなはどうなのだろう? そう思って周りを見る。

 みんな、黙ってモニターを見ていた。

 アカは無言で、ただ真っ直ぐに。

 ミドリは、モニターを見たまま、何か考えていた。

 オレンジは、モニターから顔を逸らしている、何か……見たく無いものから目を背けるように。

 アイは、すっかり黄島悠斗に魅せられたらしい、胸の前で両手を組んで、食い入るようにモニターを見ていた。

 蒼斗は無言で、視線をモニターに戻す。

 それを待っていたかの様に……


『だが……』


 モニターから、声がする。

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