第16話

 どおおんっ!!


 激しい爆発音。

 そして、土埃がコース上の、一番先頭の辺りで舞い上がり、最前列が一気に灰色の霧に包まれる。

「な 何だっ!?」

 近くを走っていたオレンジが声をあげる。

 蒼斗も、ぴたり、と足を止めていた。他のみんなも、コース上で止まっている。

「ば 爆発!?」

 言ったのはアイだ。

 蒼斗は、呆然と爆発が起きた方を見ていた、それは……

 それは間違い無く、コースの一番左の端、つまりはキイロが走っていたコースだ、どうやらそのコース上で、何かが爆発したらしい。コース上を走っていたキイロの姿は、土埃に覆われて見えない、だけど……

 だけど……

 あの爆発では……多分。

 だが。

 一体……

「な 何で、爆発なんか……?」

 蒼斗は呟いた。

 そうだ。

 一体どうして爆発なんかが起きたのだろう? キイロが、何かよっぽどの『ルール違反』でもしていたというのだろうか? だが、走っている間に見た限りでは、キイロは特に何もしてはいなかったはずだ。

 それなら一体……

 一体、どうして……?

 解らない。

 蒼斗には、解らなかった。

 だけど。

 蒼斗は、ちらり、と、正面にある大きな建物を見る。

 その入り口の上に表示されているタイマーを見る。

 時間は……後……

 後、七分半ほど。

「……っ」

 蒼斗は目を見開いた。

 タイマーは、止まっていない。

 一秒、二秒、と。時間が経過していく。突然の爆発で一人の人間が巻き込まれ、間違い無くたった今……

 たった今……死んだはずなのに、だ。

「……そんな……」

 蒼斗は呟く。

 だけど。

「っ」

 蒼斗は、微かに息を呑んだ。この『マラソン』が始まる前に流れた、あの放送を思い出す。


『正面に見えるあの建物に、十分以内に到着して下さい』


 そうだ。

 確かにそう言っていた。

 そして。


『何があっても、十分以内です』


 そう。

 あの放送は、確かにそう言った。

 『何があっても、十分以内』と。

 つまりは途中で、爆発によって、メンバーの一人が死んだとしても、それでも……

 それでも、十分以内にあそこに到着しろ、という事だ。

 それが出来なければ、出来なかった者には……

 要するに、今の爆発も、キイロがそれに巻き込まれるという事も、この『ゲーム』を主催した『主催者』にとっては、あのタイマーを止める様なアクシデントでも何でも無い、起こるべくして起こった、『ゲーム』の中での『イベント』の一つに過ぎない、という事だ。

 だからこそタイマーも止まらない。そして……

 いつまでも、ここでこうしていれば、今度は……

 今度は、自分達が。


「走れえっ!!」


 気がつけば。

 蒼斗は叫んでいた。

 そのままだっ、と、コースの上を走り出す。

「立ち止まるな!! 走るんだ!! 制限時間内にあそこに辿り着くんだ!!」

「な 何言ってるんだ!?」

 声をあげたのはミドリだ。

「今は、早くキイロを……」

「ダメだ!!」

 蒼斗は叫んだ。

「今は『ゲーム』の最中なんだ、余計な事をすれば『ペナルティ』が課せられるかも知れないんだ!!」

「ペナルティ……って、まさか……」

 アイが言う。

「……こ この仮面が……」

 オレンジも呟いた。

「だから、走るんだ!! 『ゲーム』を続けろ!!」

 蒼斗は叫びながら、そのままコースを走る。

 そのまま一気にコースを走り抜け、例の建物の入り口に近づいて行く。

 ざざ、と、足音が背後で聞こえた。

 誰かがどうやら走り出したらしい。

「みんな走って!!」

 声がする。誰なのかは知らないが、自分の近くだから、隣のコースにいたユカリだろう。

 そのままいくつかの足音が走り出すのが聞こえた。そして……

 しばらく走り続けて……

 蒼斗は、例の大きな建物の入り口に飛びついた。


 入り口の扉は、やはりこれもかなり分厚い鉄の扉だった。だが先ほどの建物の様な開閉装置は付いておらず、代わりに扉の脇に、車のギアの様なレバーが取り付けられていた。

 蒼斗はそれを掴んで、ぐいっ、と下ろす。

 がちん、と音がしてレバーが下り、そして……

 重い音が響き……

 扉が、ゆっくりと開いて行く。


 そのまま蒼斗は扉を通り抜け、暗い部屋の中に飛び込み、そのままどう、と膝を突いてしゃがみ込んだ。

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