第14話

 やがて。

 正面の、大きくて高い建物の入り口とおぼしき場所。

 そこに設置されたモニターに映し出されたのは、一人の男だった。

 背広姿の、穏やかそうな中年の男。

「あ あれって……」

 キイロが言う。

 そこに映った顔を、蒼斗は知っている、テレビなんかで有名なクイズ番組の司会者だ。

 まさか、あの司会者が、この施設に関係しているのか? 蒼斗は、そんな事を一瞬考える。

 やがて、その司会者が言う。

『最初の』

 その言葉が終わると同時に、ぱっ、と。

 一瞬にして画面が切り替わり、別な人物が現れる。

 次に現れたのは、朝のニュース番組などで有名なニュースキャスターだ。

『ゲームです』

 その言葉が終わると同時に、また再び画面が切り替わる。

 次に映ったのは人物では無く、何処かの公園みたいな風景だった。

『正面に見える』

 言葉が終わると同時に、また画面が切り替わる。

 だけどもう、蒼斗はそこに何が映っているのかなど気にしていなかった。

 あれは……

「色々な映像と言葉をつなぎ合わせて、一つのメッセージを作ってるって事ね」

 ユカリが言う。

「つまりは、あの広間で聞こえた放送と同じ、という事だな?」

 アカも、そう言って頷いた。

「ああ」

 蒼斗も同意した。

「だから映像よりも、声を聞くんだ」

 蒼斗はそう言って、メッセージに耳を傾ける。

 やがて、また別な映像が映る。

『あの建物に』

 その言葉が終わると同時に、また別な映像と音声。

『十分』

 また画面が切り替わり、次のメッセージが流れる。

『以内に』

 言葉が終わると同時に、また別のメッセージ。

『到着』

 また別のメッセージ。

『して下さい』

 それを聞きながら、蒼斗はメッセージを頭の中で整理していた。


『最初のゲームです』


 そう。

 確かにそう言っていた。

 つまりこれが、この理不尽な『ゲーム』の第一ステージ、という事だ。

 蒼斗は、ぎゅっ、と拳を握りしめる。


『正面に見えるあの建物に、十分以内に到着して下さい』


 そう言っていた。

 やがて、また別の映像が映る。


『十分』

『以内です』

『何が』

『あっても』

『十分』

『以内です』


「……?」

 蒼斗は眉を寄せた。


『十分以内です』


 確かにそう言っていた。

 それは何ら不思議な事では無い。

 これは『ゲーム』なのだ。蒼斗達にとってはふざけた、理不尽なものであったとしても、蒼斗達をここに閉じ込めた『犯人』にとっては、『ゲーム』なのだ。

 だから、『十分以内』という制限時間を区切る事に関しては、特に何の不思議も無い、どんな『ゲーム』でも制限時間があるのは当たり前の事だろう、でないと、複数の『ゲーム』をクリアーする必要がある場合などは、いつまでも次の『ゲーム』に進めない。

 だが。


『何があっても、十分以内です』


 この言葉は、何処か……

 何処か、不自然だった。

 蒼斗はじっと。

 じっと、足下を見る。まるでマラソンのコースの様に引かれたライン、大方それぞれの色のラインに立ち、そのコースを進め、という事なのだろう。

 正面の建物までの距離は、ちょうど一キロ程度というところか、蒼斗はあまり運動は得意では無いけれど、それでも、十分あればまあ大丈夫だろう。


『何があっても、十分以内です』


 そう言うからには、多分辿り着けないと、何かしらの『ペナルティ』が課せられる、という事なのだろう。


『それでは』

 声がする。

『それぞれの『コース』に』

 また別の声。

『ついて下さい』

 最後の声。

「……今は……」

 アカが言う。

「従おう」

 その言葉に、みんな頷いて、それぞれの色のコースに立った。

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