第一章

第13話

 びゅうう、と風が吹き付ける。

「……風……」

 誰かが呟く。

「そ 外に、出られるのか?」

 別な声、あれはオレンジだろうか?

「行こう」

 蒼斗は、ゆっくりと開いた扉に向かって歩き出す。

「お おい……うっかり外に出て、何かが起きたら……」

 ミドリが不安そうに言う。


 ざざ……


 と。

 また再び、ノイズの音がする。

「っ!?」

 蒼斗が。

 そしてその場にいる全員が、びくっ、と身体を震わせる。

『外に』

 声がする。

 またしても女性の声だが、最初に聞こえた声とは明らかに違う声。

 そして。

『外に、出て下さい』

 別な声が言う。

『五分』

『以内に』

『そこを』

『出て下さい』

「……五分以内……」

 蒼斗は呟く。

 五分以内にそこを出ろ、そうしないと……

 だが、それ以上の事は言わず、スピーカーからの音声は、再び耳障りなノイズ音と共に聞こえなくなる。

「……どうやら」

 アカが言う。

「ずっとこの中に隠れている、という訳にはいかないらしいな」

 その言葉に、他のみんなも、ソファーの上や、それぞれ座っていた場所から立ち上がる。

 蒼斗は何も言わずに、黙ったままで広間の出口に向かって歩き出す。

 びゅうう、と。

 またしても強い風が吹き付ける。一体……

 一体、外には何があるのか。


 広間の外に出た一同を待っていたのは、強い風と、仮面越しでも解る清々しい空気だった、都会ではなかなか味わえない空気は、もしかしたらここは、何処かの山の中なのかも知れない、と感じたくらいだ。

 だけど……

「……まあ」

 キイロが、やや呆れた口調で言う。

「あの部屋から出られたからって、すぐに完全に脱出出来る、とは思って無かったけど、さ」

 キイロが言う。

「……それにしても、これは質が悪すぎるじゃないか……」

 アカが告げた。

 蒼斗も、黙っていたけれど、それには同じ意見だった。

 確かに、蒼斗達は外に出られた、少なくとも、今、蒼斗達はあの広間の、正確には、今まで閉じ込められていた、あの広間がある建物の外にいる。

 だが。

 建物の外は、まるで……

 まるで……

 刑務所のような、大きくて分厚い塀に覆われていた。


「壊したり、上ったりは、まず、不可能だろうな……」

 オレンジが、ぼそぼそと言う。

 当然だ、と蒼斗は思った。

 蒼斗は、改めて周囲を見る。

 目の前に広がっているのは、高校か中学の運動場のような、広い空間だった。ご丁寧に、蒼斗達の足下には、恐らくはそれぞれの仮面の色に対応しているとおぼしき七色のラインが、マラソンのコースみたいに引かれている。

 そして。

 周囲は、分厚い塀に覆われている。どうやら、鉄板を何枚も貼り合わせて造られた塀らしい、上空から輝く太陽に照らされたその塀は、眩しく白く光っている、表面はツルツルとしていて、凹凸も無い上に、高さはどう見ても数十メートル以上あるだろう。

 上って脱出するなど、無論不可能だろう。どう考えてもその前に力尽きて落ちるだけだ。

「と、なると……」

 アイが、正面に、仮面に覆われた顔を向けた。

 それに合わせて、他のみんなも正面を見る。

 そこに、もう一つの建物があった。

 蒼斗は、背後を振り返る。

 今の今まで、自分達が閉じ込められていた建物。四角いコンクリート造りの建物だ、四方に通路が延びている、上空から見れば、きっと『卍』の様な形をしているのだろう。

 そこも、かなりの大きさだけれど……

 正面にある建物を見る。

 こちらは、通路など延びてはおらず、その代わりに……

 塀と同じくらいの高さの、まるで塔の様な建物だった。

 入り口には、さっきまで蒼斗達がいた建物の出入り口と同じ様な、分厚い鉄製の扉があり、こちらは今は閉じられている。

 そして。

 その上には、大きなモニターが設置されている、あれは……

 あれは、一体。

 蒼斗は、じっとモニターを見る、今はモニターは真っ暗で、何も映っていない。

「……あそこに……」

 ユカリが呟く。

「行け、という事かしら?」

 そういう事なのだろう。蒼斗は、そう思った。

 だけど。

 きっと、普通に歩いて行く、という事では無いのだろう。

 蒼斗が、そんな事を考えていた時だった。


 ざざ……


 と。

 またしても、ノイズのような音が響く。

 そして。

 入り口の扉の上のモニターに、何かが映り始めた。

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