第12話

 全員が、自分の名前を定めた時。

 それを、合図にしたかのように。


 ざ ざざ……


 古いラジオから聞こえる様な、嫌なノイズが何処からか聞こえた。

 蒼斗。

 否。

 全員が、ぴたりと黙り込んで、その音の出所を探ろうと、周囲に視線を走らせる。

 そして。


『ようこそ』


 男の声が、突然響く。


「だ 誰だ!?」

 ヒステリックに喚いたのはオレンジだ。部屋の隅に丸めていた身体を、ばっ、と伸ばして辺りを見回して叫ぶ。

「あそこ!!」

 アイが叫ぶように言い、天井を指差していた。

 この広間全体を照らす、豪奢なシャンデリア。

 その横の天井に、スピーカーの様な物があった。

 今の声は、あそこから聞こえたらしい。

 そして。


『私の』


 別な声。

 今度は女性の声だ。

「……二人組?」

 誰かが言う。

 だけど。


『宮殿へ』


 今度はまた男の声。しかしそれは、最初に聞こえたのとは別な声だった。

 三人組。

 蒼斗の脳裏にそんな考えが浮かんだ。

 だけど。


『私は』


 また別な男の声。


『この宮殿の』


 また別な女の声。


『主です』


 また別な男の声。

「な 何だよこれ? 一体何人いるってんだ?」

 ミドリが震える声で言う。

「違うわ」

 言ったのはユカリだ。

「これは、色んな人の声をつなぎ合わせてメッセージにしているのよ」

「い 色んな人の声を?」

 アカが問いかける。

「つまりは、私達をここに閉じ込めた犯人からの『挨拶』という事よ、そして……」

「そいつは、俺達に自分の声を聞かせたくない、だから、こんな方法でメッセージを送ってるんだ」

 蒼斗が、ユカリの言葉を引き継いで言う。

「とにかく今は、静かに聞く方が良い」

 蒼斗はそう言って、スピーカーをじっと見つめた。


『皆様には』

『これより』

『いくつかの』

『ゲーム』

『に』

『チャレンジ』

『して頂きます』


 いくつもの声が、次々と告げる。男もいれば女もいる、子供もいれば大人もいる、しわがれた老人の声も聞こえる、まるで沢山の人が、同時に話しかけてきているみたいで、酷く不気味だった。

 だが。

「ゲーム?」

 蒼斗は復唱する。

 そうだ。

 『ゲームにチャレンジして頂きます』

 最後のメッセージが、そう言っていた。

『まずは』

 声がする。

 また別な声だった。

『そこの扉より』

『外に出て下さい』

 その言葉が終わると同時に。


 ずずん……


「っ!?」

 建物が振動した。

 そして。


 ごごごごご……


 と。

 重厚感のある音をたてながら。

 正面の、例の鉄の扉が、建物全体が揺れるほどの振動と共に。

 ゆっくりと、上に開いて行った。

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