第9話

「……おいおい」

 声がする。

 相変わらず、ボイスチェンジャーのせいで変えられていて、男なのか女なのか解らない声だった。

 だが、もう蒼斗には解っていた。きっと男性だ、これだけ何度も聞いていれば、口調から男性かどうかくらい推理出来る。

 蒼斗はそちらを見る。

「なんだか、えらいところに来ちまったみたいだなあ……」

 そいつが言う。

 すらり、と足が長い男だ、やはり学生服に身を包んでいる、その服装は男子高校生の物だから、きっと男性だろう。

 頭にはやはり、バケツを逆さまにした様な形状の仮面を被っている。

 そして。

 そこに引かれているラインの色は……黄色だった。

「……一体、これはどういう状況なんだか、誰か説明してくれないか? ああ……」

 黄色いラインの男は、まだ扉の前に蹲っているオレンジ色のラインの男を見る。

「そっちのそいつは、あまり冷静に話せそうに無いから、出来れば他の人が良いね」

 黄色いラインの男は、そう言って他のメンバー達を見る。

「僕が説明するよ」

 赤いラインの青年が、オレンジのラインの青年の側から立ち上がって言う。

 黄色いラインの男は、赤いラインの青年を見て言う。


 そして。

 赤いラインの青年から、状況を聞かされた黄色いラインの男は頷く。

「なるほど、ね……」

 黄色いラインの男が言う。その口調から、蒼斗は彼も、恐らくは自分とそれほど変わらない年齢の青年だろう、と推測をつけた。

「それで、出口はあそこの扉だけ、と言う訳か?」

 黄色いラインの青年が言う。

「ああ、少なくとも、僕達が行ける範囲で、外に出られそうな場所は、あそこしか無かった、もっとも……」

 赤いラインの青年は、そこで言葉を切る。仮面のせいでよく見えないけれど、多分あの大きな扉に一瞬ちらり、と目を向けたのだろう。

「『外』というのが、この部屋の外、というだけなのか、それともこの建物の外、なのかは、僕達にも解らないけれど、ね」

 赤いラインの青年が言う。

 その言葉に、蒼斗はじっと、あの大きな扉を見る。

 そうだ。

 考えて見れば、その通りだ。

 この扉を出れば、もうこの建物……

 否。

 正確に言えば、この広い部屋がある『施設』の外、とは限らない。

 もしかしたら、別の部屋へ通じる廊下が伸びているだけ、という可能性だってあるのだ。

「……一体……」

 蒼斗は呟いた。

「犯人は、こんなところに俺達を閉じ込めて、何を……」

 そうだ。

 何をさせようというのだろうか?

 またしても、さっき通路で感じた疑問が湧き上がって来る。

「……確かにな」

 黄色いラインの青年が、蒼斗の言葉を耳ざとく聞きつけて頷いた。

「犯人の目的も、何故こんな物を被せる必要があるのかも、何も解らないままだ」

 黄色いラインの青年の言葉に、蒼斗は、思わずはっ、としていた。

 そうだ。

 今まで、ここに閉じ込められた事にばかりに意識が向いていて、その事に思い至らなかった。

 そうだ。

 自分達をここに閉じ込めた犯人。

 そいつは一体、何故自分達を閉じ込めたのか。

 そして。

 ただ閉じ込めるだけならばいざ知らず、何故わざわざこんな物を被せたのか……

 蒼斗は、仮面の縁をもう一度撫でた。

 顔を、見えなくする為?

 それは、その通りだろう。

 そう考えれば、名前を言えば仮面が爆発する、という仕掛けが施されている事も納得出来る、犯人は少なくとも、蒼斗達に、お互いの素性を知られては困るのだ、だからこそ名前は教え無いように、予めそういう予防線を張った、という事だろう。

 だが……

「私達が、お互いの素性を知る事が、犯人にとっては何らかのデメリットになる、という事よね?」

 紫のラインの女性が言う。

 彼女はいつの間にか、蒼斗のすぐ横に立っていた。

「それはつまり……」

 黄色いラインの青年が、みんなを見る。

「仮面の下の顔を見れば、もしかしたら我々は……」

「お互いに、知り合いかも知れないって事か?」

 蒼斗は問いかける。

 そう。

 だからこそ、仮面にはボイスチェンジャーが仕掛けられているのだろう、顔を隠しても、声のせいでお互いの素性が知られれば意味が無くなってしまう。

「……つまり……」

 赤いラインの青年が言う。

「お互いの素性を、名前も、顔も見せずに探り合う、それが犯人のやらせたいことだ、という事かな?」

「さあて、ね」

 黄色いラインの青年は、肩を竦める。

「もしかしたら、犯人にはそういう目的があるかも知れないし、それ以外にも何か別な目的があるのかも知れない」

 黄色いラインの青年は言いながら、ちらり、と。

 右奥の通路に視線をやる。

「……それから、もうあと一人……」

 黄色いラインの青年が言う。

 その言葉に、全員がそちらを見た。

 そこに、また一人の影が立っているのが見えた。

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