第5話

 蒼斗は、ゆっくりと廊下を進んで行く。

 相変わらず、通路の左右には分厚い鉄の扉が並んでいるが、いずれもぴったりと閉じられている、もしかしたら、あの中に誰か……

 誰か、閉じ込められているのかも知れない。

 そんな予感が一瞬頭を過るが、扉に近づいても何も聞こえないし、扉をいくら叩いても反応が無いせいで、もう既に諦めていた。

 それに……

 蒼斗は、ぼんやりと考える。

 きっと、この通路に並んでいる全ての扉を開けられたとしても、中には誰もいない。

 何故か解らないが、そんな気がした。

 とにかく今は、進むしか無い。

 蒼斗は、通路をゆっくりと歩いた。例の仮面のせいで視界が狭く、頭も重いせいで歩きにくいけれど、それでも蒼斗は通路を進んで行った。

 やがて、どれぐらいの距離を歩いたのだろう?

 蒼斗自身にも、ほとんど解らなくなって来た頃。

 ようやく通路が途切れ、曲がり道が現れた。

 蒼斗は、ゆっくりと背後を振り返る、もの凄い距離を歩いて来た様な気がしたけれど、実際には五、六メートルという距離だった、振り向いた視線の先に、さっきまで蒼斗がいた部屋の扉が見える。

 戻るつもりは無い、一体何が起こっているのか知らないと……

 蒼斗は、ゆっくりと曲がり角に向かって足を踏み出した。

 その時。


『……他にも……』


「っ」

 蒼斗は息を呑んだ。

 声が、した。

 次いで。


『一体これから……』


 また別の声。

 間違い無い。

 人だ、人がいる。

 だがいずれも奇妙に甲高い、くぐもった声だった、一体……

 一体、この先にいるのは……?

 解らない。

 だが、間違い無く人間がいる。

 蒼斗は顔を上げる。角の向こう側からは、この薄暗い廊下とは違い、明るい光が差し込んでいる、きっとこの向こうは明るい光が照らしているのだろう。

 どうする。

 蒼斗は胸の中で呟く。

 この先にいる人間が、自分の味方なのか……

 それとも……

 自分を、ここに閉じ込めた者達の一員だったら?

 解らない。

 だけど……

「……っ」

 蒼斗は拳を握りしめる。

 ここでじっとしていてもダメだ。

 あの部屋に戻る? そんな事も考えるが、それも同じだ、結局状況は改善されない。

 だったら。

 だったら、とにかく進むしか無い。

 蒼斗は意を決して、ゆっくりと角に向かって足を踏み出した。


 角を曲がった途端に、仮面のせいで視界が狭くても、かなり眩い光が目を焼いた。

 ゆっくりと顔を上げる。さっきまで通路を照らしていた裸電球とは比較にもならないほどの、大きくて豪奢なシャンデリアが天井からぶら下がっている。

 やはりかなり広い部屋だった、床には真っ赤な絨毯が敷き詰められ、真ん中には、三人掛けの大きなソファーがコの字型に並んでいる、その真ん中にはテーブルが置かれているが、上には何も無い。

 そして。

 ソファーの上には、二人の人影が座っている。

 蒼斗はその二人を見る。異様に頭が大きい二人組だ、そのくせひょろりと背が高い。

 否。

 違う。

 蒼斗は、二人を見た。

 ようやく気づいた。

 二人の頭の上には、バケツを逆さまにした様な形の奇妙な仮面が被せられている、蒼斗は見ていないが、きっと自分が今被せられている物と全く同じ物だろう。

 くぐもった妙な声も、恐らくはあの仮面のせいだ、自分と同じく、あの中には声を変える、ボイスチェンジャーの様な物が仕込まれているのに違い無い。

 つまりはあの二人も……?

 蒼斗と同じく、ここに連れて来られた、という事だろうか?

 まだ解らない。だけど、とにかく二人から話を聞くしか無いだろう。

 蒼斗は頷いて、ゆっくりと……

 ゆっくりと、角を曲がり。

 広間に、足を踏み入れた。

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