思い出のキネマログ
穂村ミシイ
第1話
淡い翡翠の瞳に霞がかかる。
――気が付いた時には独りぼっちだった。
簡素な白いベッドから起き上がると見知った顔は一つもなくて、周りは悲鳴と泣き声と呻き声ばかり。白衣を着た大人達がバタバタと忙しなく走り回っていた。
それが私、メモリアの一番古い記憶だ。
聖戦が終結した日、放たれた大爆炎魔法に巻き込まれた街メルーラは損害な被害を受けていた。建物は瓦礫に、資源は炭に。そして死体と負傷者で溢れかえっていた。
幼子だった私から見ても酷い有り様で。
なにより大変だったのはメルーラで生き残った者達は須く記憶を失ってしまっていたのだ。
自分の名前、家族、仕事、全てを忘れてしまっていた。
国の発表曰く、魔族に加担した大罪人のせいだと言う。
聖戦終結の代償として魔法が使えなくなった我々人間に、今となっては魔法の痕跡を辿る事も出来ないので真意のほどは定かじゃない。けれどあの大爆炎魔法を平気でぶっ放すような奴だ。きっとそうに違いないのだろう。
幸い、私の怪我は大したものではなかったのですぐ病院を出ることは出来た。
――けど、出られなかった……。
「ご両親のこと、思い出せたかな?」
毎日聞かれる同じ質問に首を横に振る。すると毎日同じ言葉で看護婦が返してくる。
「……、すぐに迎えに来てくれるわ。」
看護婦がそう言ったのは、慰めの意味も含まれていただろうが、ちゃんとした根拠もあったから。
メモリアが見つかった地区での死者が極端に少なかった。すぐ隣の地区だったらそうはいかなかったらしいが。
記憶喪失者にも二種類あり、徐々に全てを思い出せた者と全く何も思い出せない者がいた。
割合にして前者が九割、後者一割にも満たないほど稀だった。
だから両親か私の記憶さえ戻ればまた会える筈だと、悲しそうに両親を待ち続ける子供に向かって看護婦は言ったのだ。
けれど現実は残酷で。
待っても、待っても、待ち続けても。
両親と名乗る者が現れる事はなく、メモリアの記憶も戻る事はなかった。
その時には、幼い私も流石に理解した。
――私は……、両親に捨てられたんだ。
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