第11話

「何の用だ、デズモンド」


「またセアラに危害を加えるつもりなの!?」


 グレアムとウェンディに睨まれても、デズモンドに引く様子はない。つかつかとセアラの方に歩み寄る。そしてグレアムを押しのけてセアラの前に立った。


「な、なんですの……! 今後一切私に近づかないでと言ったでしょう!?」


「セアラ様、私が間違っておりました」


 デズモンドは血の気の引いた顔で逃げようとするセアラに、思い切り頭を下げる。眉をひそめるセアラに構わず、彼は続ける。


「セアラ様を私だけのものにしようなど、私が間違っておりました。貴女はとうてい誰か一人のものになることなどない尊いお方。私はただ貴女を崇拝していればよかったのです。貴女に殴られて自分の愚かさに気づきました」


「な、何を言ってるんですの……?」


 うっとりした顔で語るデズモンドを見て、セアラは顔を引きつらせる。


「セアラ様、もう馬鹿なことはいたしません。ですから、どうかわたしをお側に置いてくださいませんか? もう私だけを愛して欲しいなどと欲深いことは申しません。私を貴女のしもべにしてください!!」


「いや!! いらないわ! 来ないで!!」


 セアラは近づいてくるデズモンドから必死で逃げようとする。つい一か月ほど前まではセアラもデズモンドが好きだったはずだが、一体彼はこんな人だっただろうか。昨日とは別の意味で怖い。過去の自分はやはり相当目が曇っていたに違いない。


 セアラは呆然としつつも、デズモンドを止めようと間に入ったグレアムの手を掴む。そして、そのまま腕にしがみついた。


「デズモンド様! 私のことは諦めてくださいまし! 私、もう心に決めた人がいるんですの!」


「な……っ、まさか」


「そうですわ! このグレアム様ですわ!!」


 セアラが叫ぶと、デズモンドはショックを受けたような顔でセアラとグレアムの顔を交互に見た。一方のグレアムも驚愕の表情を浮かべてセアラを見ている。


「……嘘だ、セアラ様がそんな堅物を相手にするなど……!」


「私のグレアム様を悪く言わないでくださいまし。行きましょう! グレアム様!」


「え?? あ、ああ……」


 セアラはグレアムの腕を引っ張りながら駆け足で教室を出て行く。後ろからクラスメイトのざわめく声と、デズモンドのお待ちくださいセアラ様! という悲痛な叫び声が聞こえてくる。


 セアラは気にせず走り抜けた。



「貴女のグレアムになった覚えはないんですが……」


 セアラに腕を引っ張られながら、グレアムは困惑顔で言う。


「じゃあ今からなってくださいまし。私の方ではグレアム様を運命の人と決めてしまったのですわ」


「本当に勝手な人ですね」


 グレアムは呆れ顔で言う。今までの行いを反省しても、したいようにする性格は変わっていないらしい。


「わかりましたわ。じゃあ、私がこれからグレアム様に、この人だと思ってもらえるよう頑張りますわ! だから少し待っていてくださいませ」


「そういうことじゃないんだけどな」


 グレアムは苦笑しながら言う。それから続けて言った。


「じゃあ、楽しみにしています」


「ええ。任せてください!!」


 セアラは屈託のない笑顔で言った。グレアムは呆れた顔をしながらも、どこか楽しそうにセアラを見る。


 セアラはグレアムのその見守るような視線が、なんだか無性に嬉しかった。



終わり



◆ ◇ ◆


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わがまま令嬢は改心して処刑される運命を回避したい 水谷繭 @mutuki43

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