第10話
***
翌日、登校するなりウェンディがセアラの元に駆け寄って来た。
「セアラ! 大丈夫でしたか!? 昨日、デズモンド様と西棟で揉めたって!!」
「ウェンディ様」
「大声で言い争う声が聞こえたとか、ナイフを向けているのを見たなんて話を聞いて、私もう驚いて」
「大丈夫ですわ! 何ともありませんでしたから。ちょっと大げさに伝わっているだけで……ええと……、実際は言い争いになって脅されただけですから! それに、グレアム様が助けに来てくれたんです」
「まぁ、本当に? でもひどいことをなさいますのね、デズモンド様って。いい人だと思っていたのに」
ウェンディは頬に手をやって大きくため息を吐く。そしてセアラの頬を撫でると、無事でよかった、と心底ほっとしたように言った。
セアラはウェンディが話しているうち、クラスメイトがちらちらとこちらを伺っているのに気づいた。やがてその中の一人がおそるおそるセアラに近づいてくる。
「セアラ様、その、大丈夫でしたか……?」
「へ?」
「いえ、閉じ込められたとか、刺されそうになったかいう噂を聞いたので……! 出過ぎた真似を、失礼しました!」
セアラがきょとんとして聞き返すと、その子は慌てて謝って立ち去ろうとした。セアラは待って、と引き止める。
「心配してくれたんですの?」
「え、ええ。私なんぞがセアラ様に心配など、おこがましいですが」
「嬉しいですわ。ありがとう」
セアラはにっこり微笑んで言う。話しかけてきた子はぽかんとした顔でセアラを見た。周りのクラスメイトも唖然とした顔でセアラを見ている。
セアラは気づいていなかったが、最近、クラスメイトの間でセアラの評判はひそかに上がっていたのだ。今までと違って偉ぶらず、身分に関係なく礼儀正しく接するようになったセアラ。
皆、最初は訝しんでいたが、どうやらセアラが改心してグレアムと一緒に今までつらく当たって来た人々に謝罪して回っているらしいと聞くと、だんだんと見方を変えだした。
それでも今までの行いからセアラに気軽に話しかけるような者はいなかったが、セアラが殺されかけたと聞いて気にかけてくれたらしい。
最初の一人が話しかけると、ちらほらとほかの生徒もセアラに近づいてきて無事を気遣った。
セアラは私は今まであんなに横暴だったのに! と、すっかり感動してしまった。
「セアラ様、よかったですね」
いつのまにか隣にいたグレアムがセアラの顔を覗き込んで言う。
「ええ! 私、嫌われて当然だって思ってたから……」
セアラはそう言うと目に涙を滲ませる。
その時、教室の扉が勢いよく開いた。
「セアラ様!!」
「デ、デズモンド様……!?」
突然現れたデズモンドにセアラは後退りする。昨日あんなことをしておいて、一体なんの用なのか。デズモンドを目に留めたグレアムはセアラをかばうように前に立ち、ウェンディはセアラの横に立ってデズモンドを睨みつけた。
クラスメイトは戸惑った顔でデズモンドとセアラたちを交互に見ている。
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