第5話
「私って本当に嫌な女だったのね……」
図書館で謝罪の手紙を書きながら、セアラは深い溜め息を吐く。心を入れ替えてから過去の自分の行動を振り返ると、ひど過ぎて呆れてしまう。
「過ちを認めて挽回しようとするなんて、なかなかできることじゃありませんよ」
グレアムは珍しくそう慰めた。セアラは困ったような笑みを浮かべて言う。
「あら、優しいですのね。励ましをありがとう」
「本当にそう思っていますよ。最近の貴女は立派だ」
グレアムが真剣な声で言うので、セアラはなんだか照れ臭かった。
***
セアラの急な変化にもっとも困惑していたのが、夢の中でセアラを陥れた人物、デズモンドだった。
最近のセアラは甘い言葉をかけても眉一つ動かさないどころか、顔を合わせればすぐに逃げようとする。以前は毛嫌いしていたはずのグレアムとしょっちゅう一緒にいるのも気にかかる。
「一体何があったというんだ……?」
苛立たしさが募り、デズモンドは自室で一人ぎりぎり爪を噛む。
「これでは計画が実行できないじゃないか……」
デズモンドは拳を握りしめた後、机の上を見遣った。そこには毒の入った小瓶にナイフ、縄など、物騒なものが並んでいた。デズモンドはその中からナイフを手に取る。
「作戦を変更するしかないようだな」
デズモンドは光のない目でナイフを見ながら呟いた。
***
「グレアム様!今日の放課後は空いてらっしゃる?今までたくさん相談に乗ってもらったお礼に連れて行きたいところがありますの!」
セアラは廊下でグレアムを見つけるなり、笑顔でそう言った。グレアムは不思議そうな顔で尋ねる。
「連れて行きたいところとは?」
「街に新しくできたカフェですわ! ベリーのケーキが数十種類もあるんですって!!」
セアラは目を輝かせて言う。グレアムは苦笑しながら言った。
「それ、貴女が行きたいだけでは?」
「うっ」
図星をつかれてセアラは押し黙る。それから言い訳するように言った。
「確かに私も行きたいとは思いましたけれど。お礼をしたいのは本当ですのよ!」
「はいはい」
「もう、なんですかその仕方なさそうな顔は! 仕方ないじゃないですか。あのカフェを見た途端、グレアム様と行ったら楽しそうだと思ってしまったんですもの」
セアラはふくれっ面で言う。グレアムはその言葉に目を見開くと、口元に笑顔を浮かべて言った。
「いいですよ、お供します」
「いいんですの? というかなんだか嬉しそうですわね」
「嬉しいですよ。セアラ様が僕と行きたいと思ってくれたなんて」
グレアムはそう言って笑った。いつも難しい顔をしてばかりのグレアムに突然柔らかく微笑まれて、セアラは思わず息を呑む。
「そ、それじゃあ今日の放課後に。グレアム様は今日生徒会の活動があるのでしたわね。私、門のところで待っていますわ」
「わかりました。楽しみにしています」
セアラとグレアムは待ち合わせの時間を決めると、それぞれの目的地まで急いだ。
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