第4話
***
それからのセアラは、四六時中グレアムについて回るようになった。
「おはようございます、グレアム様!」
「グレアム様、よかったら昼食ご一緒しませんこと?」
「グレアム様、課題でわからないところがありますの。放課後に教えて下さらない?」
グレアムは始めのうち困惑し、一体何を企んでいるんだと疑いの目でセアラを見ていたが、どうやら本当に仲良くなりたいらしいことを知ると、しだいに心を開くようになった。
セアラが誘えば昼食にもつきあってくれるし、勉強も見てくれた。私の直すべき点ってどこかしら、という相談には、率直過ぎるくらいに意見を述べてくれた。
「セアラ様、意見が違う者や腹立たしい行いをする者もいるでしょうが、そこですぐ排除する方向に動いてはいけません。話し合って分かり合うよう努力し、それでも分かり合えない場合は適度に距離を置くのです。相手の領分も認めてあげなければなりません」
「うんうん」
「まして貴女は公爵令嬢なのですから。この学園で貴女の上に立てる者などウェンディ様くらいです。貴女が横暴な態度を取っていても、他の者は従うしかないのです」
「うんうん。その通りですわ」
昼休み、学園の庭で並んでサンドイッチを食べている最中、セアラの質問からグレアムのお説教が始まった。セアラは不機嫌になることもなく真剣に話を聞いている。
「……やけに物分かりがいいですね」
グレアムはうんうんうなずくだけのセアラに向かって不審そうに言う。
「あら、最近の私はちゃんと物事を理解できるようになったんですのよ。まだ認めてくれていませんでしたの?」
「だって長年の態度とあまりにも違いますから……。頭でも打ったんですか?」
グレアムは真面目な顔で尋ねる。セアラは失礼ね、と憤慨した。
「それにしてもなぜ僕と貴女が毎日一緒に昼食を食べているんですか。取り巻きのご令嬢たちはどうしました?」
「私とグレアム様はお友達ですもの。別にいいじゃないですか。あの子たちはあの子たちで楽しくやってますわ」
セアラはグレアムから目を逸らしながら言う。あの夢を見るまでよく一緒にいた令嬢たちとは、最近少し距離を置いている。あまり彼女たちといたくないのだ。
夢の中で彼女たちは、処刑台に送られるセアラを見てくすくす笑い合っていた。夢と言うにはあまりにも現実感のあるその声が、表情が、彼女たちを見ると蘇って来てしまう。
話題を変えたくてセアラは口を開く。
「それより相談に乗って欲しいのです。以前悪いことをしてしまった人たちにはどうお詫びしたらいいと思います? 例えば、ピアノのレッスンに行くのが嫌だってごねたら叱られたから、腹が立って追い出しちゃったメイドとか」
「うわぁ……。本当にわがままお嬢様ですね」
「は、反省してますのよ! だからどうすればいいのか聞いてるんです!」
セアラはムキになって言う。グレアムは呆れ顔になりながらもアドバイスしてくれた。
セアラは今まで迷惑をかけた人たちに、謝罪の手紙を書くことにした。
直接謝りに行こうかと思ったが、グレアムにそう言うと、元使用人のところに追い出した張本人の公爵令嬢が直接会いに行くなんて威圧でしかないからやめておくよう止められた。
なので彼に相談しながら彼女なりに誠心誠意手紙を書き、可能であれば戻って来て欲しいと頼んだのだ。それが無理なら好条件の仕事先を紹介するとも書き添えた。
ほかのことでも、セアラはできる限り過去の行いを挽回しようとした。
以前圧力をかけたクラスメイトの家に対しては、待遇を改善してもらえるよう父親に頭を下げた。学園を辞めさせた教師は、戻ってこられるよう取り計らった。
一度行ってしまったことを完全に取り消すことは不可能だったが、セアラはできる限りのことをしようと奮闘した。
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