灰と雪

―見てみて!お母さん!!雪だよ!綺麗だねぇ!!


遠い昔、幼かった私は雪を見た事がなかった。あの日見たものは、雪ではなかったと思う。母は、はしゃぐ私をみてどう思っていたのだろう。


そう思いながら、今の職場に向かう。街は祭りに向けてきらきらと装飾され、吐く息に反射した光が眩しかった。


元々殺し屋だった私は、訳あってこのラゼラータに逃げてきた。仕事を失敗したとかでは無いのだが、どうやらダブルブッキングに巻き込まれたらしく、逆恨みで命を狙われてしまった。


…まぁ、何にせよ前職から足を洗う予定だった私は大人しく武器を置いて、ずっとやりたかった出版関連の仕事に着いていた。


昨日降った雪が私の足を絡め取りながら、昔を思い出させてくる。元いた国は戦争と火山活動が重なり、灰が振り積もっていた。私はそれを雪だと思っていた。


それだけではない。今の仕事に不満は無いが、与えられた仕事はミステリーやサスペンスが多く、いつも犯人の使うトリックや殺人の方法に悩まされ、その度前職を思い出すので、憂鬱な気分になる。


でもまぁ、それもいい思い出だ。そう思いながら私は、転んで雪に頭を突っ込んで社長に怒られながらびしょ濡れで今日の仕事を頑張った。


風邪ひいた。殺し屋も風邪には勝てなかった

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