卵
「これはねぇ、ドラゴンの卵なんだ。君の手であっためて、孵化させてみな」
見知らぬおじさんから渡されたボール。昔はほんとにドラゴンの卵だ。なんてはしゃいでいたけれど、この歳になるとただの嘘である事に気づく。
この世界には神も精霊もいる。が、魔法や不思議生物はいない。…いやまぁ、外様の人はいるが、あれも精霊とかの類でいいだろうし。
そう思いながらも、今でもあの卵は机の上に安置されている。布で包み、落ちても割れないようにして。
もちろん、孵ることはないと思っていたから、この日も気にせず出かけて、帰ってきたら、家がなくなっていた。
見上げると、細長い胴の龍が、とぐろを巻いて自分を見下ろしていた。
買い物袋がドサッと落ちる音で、あぁ、今日卵買ったのに落としちゃったなぁ。でもどうせ料理できないしなぁ。あの卵大丈夫かなぁ。いや、この龍が中身か。
なんて思っていたら、きゅうぅんと思ったより可愛い声で鳴いて、自分をぱくりと咥えて空に飛び立った。
ぬるりとした暖かさと、びしびしと刺すような寒さで私を襲いながら、どんどんと龍は上昇した。
そして、宇宙空間で私を背に乗せ、天の川までひとっ飛び。そこから、天の川で楽しげに泳いだ。私はどうせ夢だろうと思って、そのまま楽しんだ。
とても、たのしかった。
―
「…次のニュースです。〇〇区の住宅街にて、正体不明の龍が出現。民家1軒が倒壊し、住民と思われる男性が行方不明となりました。男性の行方は未だ知れず、警察は近いうちに空まで探索範囲に入れることを検討しています。」
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