ラゼラータに神はいるのかな!

 結論。いた


 ―

 今から話すのは、数年前から少しずつ話題になっていた、ある不思議な体験談だ。


 夜中に街灯の少ない道や森の近くを通るときらきらと光るものがあるという。しかし、大体は精霊であり、疑うことなんてない。時折、神が降りてきていて、不思議な力でその神様が見えることもあるらしいが、まぁ、この国じゃよくある事だ。


 だが、今回調べた噂はそんな精霊などではない。誰もが見蕩れてしまう程の美人だと言うのだ。しかし、その姿をはっきり覚えているものはおらず、写真に収めようとしても何故か写りが悪く、あれは美しい女の人だ!という人もいれば、いいや可愛いショタだ!美味しそうだった!なんて人もいる。


 ただ、そんなごちゃごちゃしていたら普通に別人だろうと、集団幻覚だろうなんて割り切れそうなものだが、それを見た人は全員口を揃えて同一人物だという。


 という訳で、私は実際に調べてこの目で見てみようと街灯の薄い住宅街のはずれにやってきた。


 薄暗い住宅街は、まだ暗くなりたてなのにしんと静まって、少し不気味な感じもした。その街灯の下で、まずは一服とタバコに火をつけたタイミングで、視界の端にちらりと何かが横切った。


 そちらを見ると、どこか懐かしい、けれど初めて見る、楽しげな女の子が立っていた。月の光も街灯も無い夜に真っ黒のドレスを着て、こちらを見て微笑む彼女は、うっすらと燐光を纏い、きらきらと輝いていた。


 加えたタバコが落ち、目を見開いてその姿を見ていると、


(おいで)


 彼女の口元が少し動き、私を手招いた。


 が、行かない。じっと見つめ返し、首を傾げてキョトンとする彼女を落ち着いてレンズに収める。少し驚いたのか目を覆うが、すぐに頬を膨らませ、もう一度と写真をせがむ。その様子が可愛らしかったので、もう1枚、ポーズをバッチリ決めた写真を撮る。


 それから、彼女にその写真を見せると、興味深そうに頷きながら写真を眺め、その後すぐに満面の笑みをうかべた。


 すかさず、私は彼女が何者か尋ねてみた。するとあっさりと、自分は神であると認めた。では、なぜ見る人によって姿が変わるのか、多くの人が、彼女を認識し、見ることが出来るのか聞いてみた。


「知らない。なんでだろね」


 との事で、よっぽど気に入ったのか私のカメラをかっぱらって夜の空に消えていった。


 …いくつか仮説は立てられそうだが、肝心のカメラが無くなったので、調査はここで打ち切りとなった。しかし、どうやら望めば彼女に会えるというのは、とても良い情報だ。早速私はこれを記事にしようと、パソコンを立ち上げた。


 …そこには、満面の笑みの彼女と、楽しそうに自撮りしたであろう写真のフォルダがあった。カメラ、返してくれないかな


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る