路傍の宝石

その日は、月の綺麗な冬の日でした。今年は雪が少なく、道端の雪山も小さくて歩きやすかったことを覚えています。


部活の後、友達に付き合ったせいで遅くなった帰り道に、雪に埋まる何かを見つけました。近づくと、それはぱたぱたともがく、精霊さんでした。


雪ごと救いあげて、優しくほろってあげると、背中の小さな羽をふるわせて私の顔の前まで飛んできました。それから、鼻先に可愛らしくキスをして、妖精さんは飛んでいきました。


でも、飛び方がふらふらと不安定で、どうにも気になります。走ってその背中を追いかけると、案の定また雪に突き刺さっていました。


さっきと同じことを繰り返すと、私は飛び立てないよう手袋の中に妖精さんを突っ込みました。そして、ポケットからまた別の手袋を取りだしてはきなおし、どこに行きたいかを妖精さんに尋ねました。


妖精さんは、森の方を指さしながら、小さな手足をばたばた動かして私を急かします。今年の夏頃に話題になった、森の中で何かが飛び交うという噂…もしかして、この妖精さんたちがいるのかな?そう思いながら、歩き始めました。


歩きながら、今練習している曲を鼻歌で奏でていると、妖精さんはすぐに合わせて歌い始めます。今年の課題曲…いや、問題はそこでは無いですけど、そこまで沢山の人が知ってる歌では無いのに、とても楽しそうにハモっていました。


近所迷惑になりそうなので、声量は落としながらも2人で歌うことはやめません。妖精さんは、テンションが上がったのか、手袋の中から飛び出してふよふよ飛び回りながら歌います。


飛んでいる妖精さんの羽は、ステンドグラスのように沢山の色が輝いて、月の光を受けて宝石のようでした。道端に刺さっていたし、路傍の石…路傍の宝石?いい感じの洒落だなぁ、と、ふふっと笑ってしまいます。


森につくと、周りから他の妖精さんが集まってきました。見蕩れていながらも、私はそろそろお別れかぁ。と、立ち止まります。すると、おいでおいでと、森の奥へ誘おうと手を握って引っ張ります。


引っ張られるままに向かうと、そこには女神様がいました。普通は、女神様を見ることなんて出来ません。多分、妖精さんとずっと一緒にいたから目が慣れてしまったのかな、そう考えていると


「ありがとうございます」


女神様は頭を下げます。私は慌てて、やめてください。と、言ってしまいます。女神様は微笑みながら私を見て、改めて妖精さんを連れてきたことの感謝を述べてくれます。それから、よければ一緒に歌いませんか?と、誘ってくれます。


もう暗くて、帰らないといけない時間。けど、私は楽しそうに踊る妖精さんを見て、荷物を降ろしました。


それから、沢山歌いました。古い曲も、新しい曲も、私の知らない歌も。時間はどんどん過ぎていきます。


時計を見れば、もう夜の8時です。流石に帰らないといけないと伝えると、それじゃあ、お送りしましょう。と、女神様は私の手を取ってふわりと飛び始めました。


夜の街は、静かだけど暖かい光に溢れて、とても綺麗でした。空の星も、月も、妖精さんの羽も、全てが宝石のようで、目から離れません。


…気づけば、家で眠っていました。昨日のあれは夢だったのでしょうか?そう思いながら体を起こすと、隣に昨日のドジっ子妖精さんが気持ちよさそうに眠っていました。


どうやら、私は宝石に見初められてしまったようです

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