見えないヒーロー
小さい頃、私は死にかけたことがあるらしい。大型トラックが、私目掛けて突っ込んできて、危うく轢かれるところで、突然トラックが止まって、私は助かった。
トラックの後ろから見ていた母は、後輪が浮き、ドガァン!という大きな音で、完全に私が下敷きになったと確信していたが、何故か無傷で倒れていることに困惑しつつも、そのままで済ませてしまった。
そんなことが、何度もあったらしい。小学生の頃、力の強いクラスメイトの男子に突き飛ばされて窓から落ちそうになった時、突然私の体がふわっと浮いて、無傷で地面に降り立ったり、工事現場近くで鉄骨が落ちてきた時も、その鉄骨が何かに殴られたようにどっかへ飛んで行ったと言う。
でも、最も不思議なのは私にその記憶が無いことだ。
神や精霊もいて、不思議な事の起きるこの街だが、もちろん魔法なんて素敵で便利な力はない。であれば、その神が助けてくれたのか?答えは否。だと思う。
私は親と違って、まだ信じるべき神を見つけていない。信仰がごちゃごちゃしているこの国の子供の多くは、最初はそうなりがちなのだ。
だから、私のことを見守ってくれていても、助ける義理は無いと思う。
じゃあ何だろうか。先祖霊か?いや、この世界は死ねばすぐに死神様が魂を連れていくから、それは無い。
じゃあ、神様に愛された、本物のヒーロー?確かに、超人もたまにいるけど、どうしてその姿を現さないのか。
うんうん頭を悩ませていると、何かに足をひっかけた。先日の大雨で吹き上げられた地下水が、マンホールの蓋を押し開けて、危険な落とし穴になっていたのだ。
だが、目をつぶり、落ちる!そう思った時、強い力で、ぐいと引っ張られた。
そこにいたのは、1人の男だった。もしかして、彼がヒーロー?そう思って、口を開こうとした時、彼はしぃっ。と、私の口に指を押し当て、地面を蹴って空に向かって飛んで行った。
初めて見たヒーロー。どこかで見覚えのあるヒーロー…そう、幼い頃に、好きだったアニメで、主人公を支えてたかっこいい紳士。それに、よく似ていた。
―ぐらりと、視界が傾いて、次には硬い地面の感触を感じた。
目が覚めた時、何が起きたか全て忘れていた。ただ、マンホールに足を引っ掛けたことは覚えている。
その数日後、友人が暴漢に襲われているところを見た。それを助ける、1人の紳士も。でも、何も気づけず、何も知らぬまま、私たちはまた、彼に助けられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます