金縛り

 ある日の事、私は金縛りにあった。四十路も近い私は、もしかしたら運命の人でも部屋に来たかななんて妄想してしながら目を開けてみた。


 いつもと変わらない天井が見えてから、ゆっくりと視線を下ろす。その先には、牙を向いた三匹の犬と、それに跨りびくびく震えながら刃渡り2mを越す大太刀を構える少女がいた。


 私は目を閉じた。それからまた、ゆーっくりと、右目だけ開けてみた。そこには申し訳なさそうに太刀を振り下ろそうとする少女がいやがった畜生。


 が、人間危機が迫ると冷静になるし、寝起きで頭も上手く働いていないから、きっと夢だと思い、君は誰と声をかける。


「あ、あの。実は私悪魔で、あなたの事が好きなんです。だから殺して地獄に連れて行きますね」


 やべえ話通じねえ。

 …いいや、きっとこれは夢だ。犬の重みも、吐く息の臭さも、ゆっくり太刀でつんつんしてくる楽しそうな少女と夢なんだ。だから、私は聞いた。こんな38のおっさんのどこが好きなんだい?


「あ、同い年…うれしい」


 答えてくれよ。あとその見た目で38なの君。もっと年上か年下だと思ってたんだけど、中途半端すぎでは?ランドセルとか似合うよきっと。


「似合う…?えへへ、ほ、ほら可愛い?」


 少女は背負っていたランドセルを見せてくる。どうして?


「あ、私ね、あなたの声が好きなの。渋くて、かっこよくて。その声で愛を囁いて欲しいの」


 そういう割にはさっきから喉つんつんするじゃんすごい痛いし白いパジャマもう真っ赤よ?わんちゃんぺろぺろして嬉しそうよ?


「じゃ、じゃあ…殺すね」


 少女は、太刀を思いっきり持ち上げる。それを見て、待つんだ!と制する。


「ふぇっ、え、なにぃ?」


 少女は驚き、太刀を取り落とす。犬の後頭部に刺さったおかげで私は無事だった。


 地獄にはついていく!だから殺さないでく


「無理、殺す。生身連れてけない」


 くそが!…いや、そうだ!愛を囁いて欲しいならろくお


「無理、殺す。生声以外許さない」


 詰みか!?…なら、ならこっちで結婚をしてくれ!


「む…りじゃない。…結婚、いいの?」


 あぁ!君は可愛いし、素敵な人だ!すぐにペット可な部屋を探すから!な!?


「…えへへへへ、嬉しい」


 ―それから1年。28匹に増えたケルベロスと、あの少女との新婚生活は順調だった。ことある事に浮気を疑われ刺されかけたが、私は今、しあわせです

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