小人のお祭り
ある日の事だ。いつも通り、職場に続く綺麗な一本道。その横に、縁日ができていた。
大きさは私の膝くらい。足で蹴飛ばせば、簡単に壊れてしまいそうな屋台に、
「ラッシャイ」
と、小人が店番をしていた。独特な模様のハチマキをつけた、干した鮭を売る小人や、金銀宝石のちりばめられたアクセサリーを売る小人。他にも、食べ物や色々なもの、射的やくじなんかも売っている不思議な屋台。
私は目を擦り、水を飲んで辺りを見渡したが、近くにいた人も同じように夢を見ているような感じがした。
しかし、思い返せばこの街は不思議な話がそこいらに転がっていると聞いたことがある。私も、普段は目にしないので実感がなかったが、この街では普通の事だった。
幸い、新人の研修などで忙しく、有給も取れていなかったので、携帯を取りだして上司に連絡。上司も、折角だからとあっさり休みを認めてくれた。
―さて、ところで結局、この祭りはなんなのだろうと思い、足元にいた小人の女の子に聞いてみた。彼女は、
「イチネンニ イチドノ コビトノマツリ。 セカイジュウカラ コビト アツマッテイル」
と、片言の日本で教えてくれた。さらに、
「ニンゲンノカネ ツカエナイ アソコカンキンショ カネトチケット コウカンスル」
と、小さな手をぐっと伸ばし、案内してくれる。その先にあるテントには、人間も小人も沢山並んでいた。
4口ある換金所は、スタッフの腕が良いのかサクサクと進み、私の番はすぐに来た。
「トウイツカヘイ? ラゼラータカヘイ?」
スタッフの小人は尋ねてくる。私はラゼラータ貨幣を選び、1000ラータを10枚のチケットに交換する。
さて、改めて通りを見ると、かなりの数の屋台が並んでいる。小人の種類は多く見えないが、そも小人の数が多いのだろう。
また、多くの店は小人向けのかなり小さい物を売っているが、ちらほらと人間向けの大きさの物もある。
かなり大きい肉の串焼きを3人がかりでひっくり返していたり、小人の腕輪を人間向けの指輪やネックレスとして売っていたり。中にはその屋台を手伝い、一緒に酒を飲み交わす人もいた。
私は早速、3枚のチケットを使った。買ったのは、果物から作ったという不思議な香りのお酒と、聞いた事のない動物の肉の串焼き、万華鏡のようにきらきらと輝く宝石で作られた髪留め。少し離れた所にある大きな木の根に腰を下ろし、食べ始める。
お酒はさっぱりとしていて飲みやすいけれど、アルコールがきつく、肉は独特のくせがあったけれど、お酒で流すととても美味しく感じた。
髪留めも、この街に来てから伸ばし続けてきた長い髪に、よく映えていると思った。自分で言うのもなんだけど。
そうして、他にも屋台を巡りしばらく。さっきの小人の女の子にまた出会った。しかし、様子が変だった。
「…ハグレタ」
どうやら妹と2人で祭りに来ていたのに、気づけば妹が先行し、いなくなってしまったらしい。
「ドウシヨウ…」
俯く小人の女の子。それを、私は優しく持ち上げる。
「アッ… チョッ タカイ… マッテ、コワイ」
女の子は怖がるが気にせず、
こっちの方が早いから
と、肩に乗せて歩き始める。屋台の人に尋ねては、歩いて足元を注意深く観察する。妹は、この子とよく似ていると言うから、ちゃんと探せばすぐ見つかると思った。
そして、案の定すぐ見つかった。
なんと、私のカバンの中に入っていた。
チケットがなくなり、祭りの本部に行くついでに換金しようとカバンを漁ると、その中に入っていた。どうやら買い食い中に迷い込んでいたらしい。
そんなこんなもあり、すっかり日も暮れてしまった。あの子は私のカバンに迷い込んだが、私も、実は現実では無い不思議な世界に迷い込んでしまっていたのかと、ふと思いついてしまう。しかし、頭の髪留めと、あのふたりから貰った小さな指輪があの祭りを本当の事だったと教えてくれた。
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