ようこそ、サラダボウルへ!

 この街は、いつも不思議なことが起こる。故郷では科学一筋で、怪談や心霊、怪奇現象の類を信じなかった私が、黙って首を縦に折るしかなかった。


 まぁ、元よりこの世界には神様が沢山いる。今更お化けが出ただの妖怪と結婚しただの言われても、納得しかない。


 だからといって、目の前に女神がいることを受け入れられるかと言われたら、まぁ無理な話だ。


「…見えてるのか」


 女神様は、不思議そうに首を傾げる。私はこの女神様を知っている。故郷で信仰されている神様で、私も毎日祈りを捧げてるのだから。


 科学と兵器の女神、イルフィル。私の国ではほぼ廃れかけた宗教文化の根幹であり、優秀な…自分で言うのもなんだが、科学者の自分が追放される原因となった…なった?女神様だ。


 そう、私は科学者でありながら女神を信じているという罪で国を追われ、この地にやって来た。


 大陸の果ての小国ラゼラータ。の唯一の街サラダボウル。その名の通り、色とりどり何もかもがごちゃ混ぜのこの街は世界中から沢山の人が集まって作られた。


 例えば新興宗教を立ち上げ迫害された人々、国で居場所をなくした家族、国から追われた私みたいな人、駆け落ちしてきたもの。


 最初は海が近く、土も荒れてまともに人が暮らせる土地ではなかった。更には冬は極寒でマイナス25を下回り、大雪も降るし、夏は湿度は低いが最高40を超えるアホみたいな土地。それをみんなで開拓し、自給自足で一生懸命に生きている。そんな混沌とした国だ。


 さて、少し脱線したが目の前の女神様に話を戻そう。


「随分と長く浸っていたな。話しても良いか」


 女神様は、どうやら私に伝えたいことがあってここにやってきたらしい。


「実はな、私の信者はもう君しかいないのだ。そこで頼み事がある」


 …なるほど、私に貴女のことを喧伝しろ。と?


「逆だ。私の事を忘れてくれ」


 はぇ?は?女神様を忘れろと?信じるなと?


「そうだ。本当はな、疲れてるんだ。女神の仕事に。だからやめたい」


 えぇ…


「という訳だ。さらばだ」


 ―あの後、家に帰って、コーヒー飲んで、しばらく考えた。の末に、思いついた。そうだ、旅に出よう。


 なんかもう…この世界に嫌気がさしてきた。だってさ、コーヒー買いに行ったらそこの店員さん全裸の獣人なんだもん。もっふもふだった。


 てな感じで、旅に出ます。さよなら。




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