第13話 学園モノ

「ちょっと見落としてたジャンルがあってさ・・・」

ケンイチが話を始める。

「見落としですか?作品ではなくてジャンルで??」

知樹が疑問に思う通り、語るアニメのジャンルの順番なんてテキトーだったと思うので、忘れていた、見落としていたという事は基本的にないと思うのだが・・・

「いやぁ・・・さっき語らせてもらったラブコメアニメでは、ラブの要素とコメディの要素を含んだ学園モノの作品をピックアップして紹介したんだけど、ラブもコメディも含まない学生の話も多いなって思ってさ」

「そうですね・・・そう言われればラブもコメディも含まない学園モノのアニメは多いですよね」

「学園モノアニメのジャンルか!それは興味あるな!」

そもそも俺が好きな『けいおんぶ!』もこのジャンルに入るのではないかな?

「個人的には・・・ラブは含んでもいいかな?メインテーマが別にあっても、男女のキャラがいれば、その中で勝手にキャラ同士が恋愛を始める事は多々あるからね」

「勝手にって・・・」

まるでキャラ達が自分達の意志を持っているかのような言い草だ。

「少女漫画原作の作品だったら、主人公とヒロインのハッピーエンドの後ろでサブキャラ同士がなんの脈略も無く付き合ったり、結婚したりしますもんね」

それはさすがに偏見では???

「あるある」

あるあるだったのか。

「とにかくケンさんが学園モノでも語りたいと言うのはわかりました。ラブ抜きとラブ入りでも分けておきますか?」

「正直どっちでもいいけど・・・一応、ラブが入ってるか入ってないかは事前申請するようにするわ」

「いやいや、俺は別にそんな事にいちいちこだわらないからな」

こだわってるのはこの2人だけなのである。

「まぁまぁそう言わずに・・・ヲタクはどうやって理屈をこねくり回して、ウンチクを語るかが楽しみなんですよ!ねー?」

「ねー!」

本当に仲がよろしい事で。

「じゃあケンさん、学園モノ、学生モノのオススメアニメ作品・・・いっちゃってください」


「そうだな・・・まずオススメしたいのは『宇宙よりも遠い所』かな」

「『よりもい』!良いですね!」

また独特の略し方!

「『よりもい』・・・?」

「『宇宙よりも遠い所』のひらがな部分だけを読んでよ・り・も・いですね。ちなみにタイトルの読み方は『ソラよりもトオいバショ』です」

「宇宙と書いてソラと読むパターンね。読みも略称もぐちゃぐちゃでわけわからんな」

「宇宙をソラって読むのは難読じゃないやろ?ヨシハルだって、小宇宙(小宇宙)はコスモって読む世代やん」

「そうだな。言われてみたら宇宙もソラって読めるし、小宇宙はコスモって読むし、特攻はぶっこみって読むな」

なんだかんだでこの辺りの知識はもう義務教育のレベルだと思う。

「さてその『よりもい』なんだけど、ストーリーは女子高生4人が南極を目指すお話です」

「ファンタジー?」

「どっちかって言うとリアル寄りですね」

「リアル・・・なのか?」

「前半は女子高生が南極大陸に行く理由付けと手段の模索、後半は南極への旅・・・友情と成長みたいな構成やな」

「恋愛要素無しの笑いあり涙あり系ですね」

これは・・・俺の好みかも知れんな。

「女子高生がおっさんの趣味をやる系アニメではさすがに南極旅行が趣味のおっさんはおらんだろうって事で・・・除外、ラブの要素がないからラブコメジャンルでも除外して、ここまで紹介出来なかったけど、本来ならヨシハルにめちゃくちゃオススメしたかった作品の1つやわ」

「すべてのジャンル込みで、よっさんにオススメするとしても名前があがってくるような傑作です」

「1クール、アニオリ、可愛い女の子いっぱいで素晴らしい女の子達の友情・・・ヨシハルは絶対に好きだと思う」

見透かされていたか。

「でも大半が学校の外の話だから、学園モノじゃないですよね」

「そうそう!でも学園モノ、学生モノって事で!ここで紹介しとくわ。どうせどっかのタイミングでは紹介したいアニメだったし」

「そこには完全に同意します。というワケでよっさん。『よりもい』は2人からのオススメなので是非見て欲しいです」

「オッケー!これはさっそく視聴させてもらうわ」

「良い判断です!」

知樹に褒められた。


「次は・・・『かげきだんしょうじょ!』も勧めたい」

『よりもい』の話が終わったらすぐに次の作品に切りかえてきた。

やはりこのジャンルはケンイチの得意分野なのだろう。ペースが速い。

「『かげきだんしょうじょ!』は宝塚歌劇団を元ネタにした少女漫画原作のアニメですね」

そう言えば少女漫画原作のアニメ作品は、今日はあまり紹介されていないな。

「少女漫画原作のアニメで、2人がオススメしてくるのって珍しいな」

2人はあまり好きではないのかと思っていた。

「今まで紹介したジャンル・・・ロボット、異世界転生、スポーツ、バトル、SF作品に少女漫画が少ないからじゃないですかね。ラブコメなら少女漫画原作は多そうですが、その辺はどうなんですか?」

「そうだな・・・『僕物語』とか『あなたへ届け』とか、この後に紹介するつもりの『ちはやふるっ!』なんかも少女漫画原作やけど・・・基本漫画原作の作品ってアニメだけで完結する事が少ないから、なかなかオススメしづらいなと思ってさ」

「この『かげきだんしょうじょ!』はアニメで完結してるの?」

「全っ然してないわ。原作ストックも少ないから2期も今のところ全く予定がない」

「じゃあなぜこれをオススメした?」

「たしかに・・・ケンさんのいつもの基準だと外されそうですよね」

別にノリで好きな作品をオススメしているのだろうから、細かい矛盾を言うつもりはないが、気になる点でもある。

「単純に面白いから見てもらいたいってのも大きいけど・・・」

けど?

「この作品・・・『かげきだんしょうじょ!』に関して言うならアニメ化された事で宝塚風の音楽や、声優さんの声・・・まるで宝塚のジェンヌさんのようなの演技が付く事によって原作の魅力を何倍にも増幅させてるのよね」

ケンイチは続ける。

「俺は基本的に原作読めば良いや!ってなるタイプなんだけど、アニメ化する事で原作を越えてくる作品・・・特に音楽系の原作付きはそういう作品が多くて、そんな作品は原作も素晴らしいけど、アニメも絶対に見て欲しいってなるねん」

「よっさんの好きな『けいおんぶ!』もそうですよね。もとは4コマ漫画原作ですが、音楽が付いて、声優さんがセリフを吹き込んだアニメの方が絶対に面白いと思います」

「吹奏楽がテーマの『轟けユーフォニアム』や後で紹介するつもりだったお琴がテーマの『この音トマレ』もアニメで音楽が付いて魅力が倍増する作品やわ」

「お琴?お琴のアニメもあるの?」

毎回言ってるが、本当になんでもあるな。

「お琴もあるよ。そのアニメの為にオリジナルのお琴の楽曲が作曲されたり、『かげきだんしょうじょ!』だったら元宝塚歌劇団に所属していた声優さんを何人もキャスティングしたりとか、凄く原作をリスペクトしてアニメ化したなって作品はやっぱり面白いよな」

「とりあえず、ケンさん基準だと、原作をチェックした上で、原作よりもアニメの方が面白い作品は積極的にオススメしたいって事ですね」

なんとなくは理解した。

「原作よりも面白いってのは少し語弊があるけど・・・アニメ化する事で原作の魅力をより引き出してるって作品やね」

原作厨のケンイチをうならせたアニメ化作品と認識しておこう。

「『かげきだんしょうじょ!』はアニメから入って、俺は最終回後には原作漫画を全部購入したからな・・・結局は続きは漫画でって言うしかないのがツライところではあるが・・・」

さすが原作厨。期待通りの行動をしてくれる。

「てか、アニメ見て続きが気になった作品の原作を俺が持ってたら全部貸すよ。遠慮せずに言うてな」

布教も忘れないところがヲタクの鏡である。

「ちなみに女性だけの歌劇団の話なので今の所ラブの要素は少ないけど、少女漫画原作なので、いつラブのパートが入ってきてもおかしくない展開ではあります!」

ラブ要素申請・・・いるかな?


「次は・・・この流れで話題にもあがったし『この音トマレ』かな?」

「さっき言ってたお琴のやつですね」

「これは少女漫画原作・・・と見せかけて、少年誌に掲載されている女性漫画家さんの作品やな」

「ややこしいな。なんか関係あるん?」

「ない・・・かな。絵柄は少女漫画で、やってる事もお琴だけど、内容は激熱のスポーツ漫画みたいな感じの作品」

お琴がスポーツ??どういう事だ?

「不良がひょんな事からお琴を始めるストーリーで、チームメンバーにとある事件でお琴から離れていたお琴の名家出身の天才と、みんなをまとめる真面目で努力家の部長がおって・・・」

「スポーツアニメやないか!」

「ライバル校との対戦や、不良時代の仲間との決別や和解があって、全国大会にコマを進め・・・」

「やっぱりスポーツアニメやないか!」

「完全にスポーツアニメのテンプレですね」

「やろ?ちなみにこの作品はしっかりとラブの要素もあるよ」

ケンイチが好きなやつや。

「王道のスポコンアニメのような熱さに、女性作家さんによる少女漫画のようなラブのエモさ、さらには実際のお琴の演奏シーンのクオリティもあって本当に面白い作品やわ」

「たしかにケンさんが好きそうで、オススメしたい気持ちもわかる作品ですね」

「そう!原作を読んで欲しい気持ちよりも、アニメを見て欲しいって気持ちの方が勝つ作品なのよね」

「それで気に入れば続きは原作で・・・ですね」

「そう・・・やな。これも原作買ったから貸せるよ」

「ケンイチは気に入ったら絶対に原作買うん?」

少し気になったので聞いてみた。

「小説原作は・・・気に入ったらほとんど買うかな?漫画原作は漫画喫茶で済ませる事も多いわ」

ほとんど買うのか・・・。

「ケンさんの部屋、天井まである本棚が4~5個ありますもんね」

ん?ケンイチが結婚してから何度か家に行った事があるけど、俺はケンイチの部屋には入った事ないぞ?

「俺、ケンイチの部屋入った事ないねんけど・・・」

「あー。基本ヲタ部屋やからな・・・知樹くらいしか入れた事ないわ」

「自室っていうよりは、本棚とアニメグッズがある倉庫とか・・・コレクションルームみたいな感じでしたね」

結婚して自宅にコレクションルームを作るなんて、どんなけ恵まれた結婚生活をしているんだ・・・正直うらやましい。

「奥さんが趣味に対して理解があるのって良いですよね・・・僕もそんなお嫁さん捕まえたいです」

「知樹の理想は2次元にしかいないからな・・・」

知樹はモテるのに、未だに結婚の話が出ないのはこういうところなのだろう。

俺も気を付けなければ・・・このままヲタクの道を突き進めば、その道は修羅の道と化す場合はありそうだ。


「次は・・・名前がすでに出ている『ちはやふるっ!』かな。こちらはカルタです」

「カルタ・・・もう、いちいち驚きはしないけど、面白いん?いや、オススメしてくれるって事は面白いねんな」

「これは僕も好きな作品ですね!カルタと言っても競技カルタが主題の作品ですね」

「そもそもカルタと競技カルタの違いがわかんないですわ」

まるでご存知・・・みたいな感じで言われても困る。

「競技カルタはまぁ・・・厳格なルールがある対戦要素の強いカルタくらいの認識で大丈夫だと思う・・・」

ケンイチはそのまま話を続ける。

「その競技カルタに小学生の頃出会い、高校になってカルタ部を作って、団体戦や個人戦に出場、そして主人公は日本一のクィーン戦に・・・さらには小学時代にカルタを始めた3人の三角関係が・・・みたいな話やわ」

「クィーンって事は主人公は女の子?」

「そうですね。『ちはやふるっ!』は少女漫画原作で、主人公は女の子1人と、メインの男の子が2人います」

「漫画原作だけどすでに完結しているし、人気のあるシリーズだからもしかしたら最後までアニメ化される可能性も・・・あるかもしれない」

「たしかすでに3期6クール分がアニメ化されてますよね。ここまで来たら最後までアニメ化して欲しいですねぇ・・・」

「6クールって・・・70話以上か!?長いな・・・」

これは・・・なかなか手が出しづらい。

「見るのに時間がかかる上に、現状ではアニメで結末までは見れないけど・・・面白さは保証するよ」

「面白いのは間違いないです!僕は原作読んでないから・・・絶対に最後までアニメ化して欲しいなぁ・・・」

「ちなみにケンイチは原作も読んでるんだよな?」

「読んでるし、持ってるな。『かげきだんしょうじょ!』とか『ちはやふるっ!』の少女漫画系はさおりが集めてるわ」

このヲタク夫婦め。

「そうなんですね。じゃあ・・・ケンさんに借りようかな?『ちはやふるっ!』はやっぱり最後まで見ておきたいです」

「オッケー。さおりに言うて今度持ってくるわ!たしか50巻まであるけど」

「アニメの続きからだけでいいですよ・・・」

「じゃあヨシハルには最初から貸そうか?」

「いや、俺もアニメ見た後に続きが気になったらでいいよ」

いきなり50冊の漫画を渡されても・・・困る。そもそも今日帰ったら見なければいけないアニメがすでに山積みなのだ。いくら時間があっても足りない。

「じゃあ知樹には暇な時にでも漫画届けるわー。ヨシハルはアニメを見て興味が出たらって事で」


「知樹には学園モノでオススメの作品はないの?」

次は知樹に話を振ってみる。知樹も話したくてウズウズしているはずだ。

「僕も・・・けっこうありますけど、ケンさんを差し置いてでしゃばるのもアレかな?って」

「どんな遠慮やねん!俺も知樹のオススメ聞きたいわ」

「そうですか?まぁケンさんの知らない作品でオススメするのは難しそうですが、定番なところで『水菓』とか面白いですよね」

「良い!『水菓』は絶対に良い!」

知樹のオススメにケンイチも同意する。

「『水菓』・・・高校が舞台のミステリ作品ですね。殺人事件が起きたりする系ではなくて、日常に潜む不思議なんかを解決する作品です」

「小説原作・・・しかもラノベとかじゃなくて一般小説からのアニメ化なんだけど、太秦アニメーションが素晴らしいア映像化をしていて、ミステリの空気感とキャラクターの魅力のミックスがめちゃくちゃ良い作品」

「一般小説からのアニメ化作品は、今日話に出た中でも『風の強い日は嫌いか』とか『船を編む』や『新世界から』、その他にも『すべてはEになる』、『図書室戦争』とか面白い作品は多いんですけど、キャラ自体に人気が出て、その後も長く語り継がれる作品は正直かなり稀有ですよね」

「これは本当に太秦アニメーションの力が大きいと思うアニメ化やわ」

「ケンさんの言う、原作よりもアニメの出来が良いって条件は満たしますかね」

知樹がちょっとドヤ顔をしている。

「原作も面白いけど・・・原作でも単発の事件を解決して、伏線とかを残さない作風だから、アニメだけ見ても全然問題無い作品だと思うわ」

ケンイチのお墨付きが出た。まぁそんなもんいらんのだが。


「あとは・・・『ビースターズ』とかどうですか?」

「『ビースターズ』が学園モノ?いや・・・そうか!盲点だったわ!『ビースターズ』良いね!」

なんかケンイチが困惑した後、勝手に納得してサムズアップしている。

当然、俺にはなんの事かわからない。

「『ビースターズ』は動物達を擬人化した世界観の話なんですけど、社会や学校の中で草食動物と肉食動物が上手く共存している・・・つもりなんですよね。そこで実際に生まれる歪みやどうしても超えられない生物の本能の壁が原因で事件が起こって・・・みたいな話です」

「動物の学園モノか・・・なんか児童アニメみたいだけど・・・」

「実際はけっこうグロかったり、際どいシーンも多い作品で、テーマも含めてガッツリ大人向けやわ」

「ケンさんが好きな恋愛要素もありますしね。ウサギとオオカミの」

「ウサギとオオカミの恋愛・・・意外と萌えるんだよな」

萌えるんかい!

「これも漫画原作ですけど、もう完結してましたよね?」

「漫画原作やな!でもこれは漫画喫茶で全部読んだから貸せないわ・・・」

大丈夫、すべての原作作品を所有しているとは期待してないから。

「『ビースターズ』は人気があって2期までアニメ化されましたから、3期・・・その後に最終話まで映像化もありえなくはないので期待しておきます」

「そうだな。アニメの続編情報とかがあれば、ヨシハルに改めて薦めてもいいかな」

「『ビースターズ』も面白そうではあるけどね。機会があったら見てみるわ」

動物の学園モノ、ウサギとオオカミの恋愛・・・俺はついて行けるのだろうか・・・


「こんなもんですかね?」

知樹がまとめに入ろうとする。

「もう1個、もう1個だけ、オススメってワケじゃなくて好きな作品なんだけど・・・」

ケンイチが待ったを掛ける。

「どんな作品ですか?」

知樹も律儀に付き合ってくれるようだ。

俺ももちろん興味あるけどね。俺にオススメしてくれる作品ではなく、ケンイチの好きな作品・・・ケンイチの趣味嗜好を知るのも楽しい。

「『月はキレイ』って作品なんだけど・・・」

「あー。聞いた事はありますけど、これは見てないですね・・・」

知樹も知らない作品か・・・当然俺も知らない。

「中学生の淡い恋愛アニメやな。なんというか中学の時こんなんやったなとか、この時は俺もこんな事したかったなとか、むずがゆい記憶が蘇ってくる作品やわ」

「これは・・・好き嫌い分かれそうですね・・・中学時代を暗黒期と思って封印しているヲタク勢なんか見てて死んじゃいません?」

「そう・・・なんかな?俺は彼女おったし、そこまで気にならなかったけど・・・」

「僕も彼女いたから問題ないですけど、よっさんは・・・?」

「ああ!?俺は絶対に見ねーよ!バーーーカ!」

失礼なやつらだ。見ないけどな。


「じゃあ改めて学園モノはこんな感じですかね?」

「そうだな・・・『よりもい』は絶対に見て欲しいかな!あとはこのジャンルが気に入ったら、徐々に手を出してくれれば・・・原作必要なやつは貸すしね」

「了解。じゃあ『よりもい』は見まーす」

このジャンルでもまた興味のある作品が増えたな。

楽しみが増えるばかりだ。








































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