第6話 異世界転生

「次は僕が異世界転生アニメについて語っていいですか?」

インターバルを挟まずにの知樹が自分のターンを始めようとする。

「今1番勢いがあって多くの作品がアニメ化されているジャンルやね」

「多過ぎて玉石混交ではありますけどね」

たしかについ最近アニメの情報を漁りだした俺だが、この手のアニメはすごく多いような気がする。そして未だに手を出していない未開のジャンルでもある。

「前提として異世界転生と一言に言っても正確には『異世界転生』『異世界転移』『ゲーム世界転移』とざっくり3つの種類に分ける事が出来ます」

「ほう・・・」

ほう・・・じゃねぇよ!またなにかいきなり始まったぞ。俺は単純にオススメアニメのタイトルが聞きたいのだが。

「まず異世界転生は現世・・・現実世界で死んでしまって別の姿で生まれ変わるパターンですね。容姿が変わったり、性別が変わったり、スライムとか蜘蛛と別種族で転生したり、最近だったら剣とか生物ですらなかったりするパターンもあります」

剣に生まれ変わって何をするんだろうか?

「代表作は『転生したらスライムだったみたい』『蜘蛛ですが?どした?』『ニート転生』、『本好きの逆転劇』、『少女戦記』とか・・・多過ぎて例を挙げきれないくらいあります」

たしかにこんなに作品名を出されても覚えきれない。

「『転スラ』と『本好き』は見たわ」

ケンイチもなんだかんだでチェックはしてるジャンルなのね。

「じゃあケンさんには「ニート」も見て欲しいですね。雰囲気的には1番ケンさんの好みに合いそう」

「俺には?」

ケンイチだけアニメソムリエしてもらっててズルい!

「よっさん・・・まだです。ステイ!」

犬みたいに窘められた。

「次は異世界転移ですね。こちらは死なずにそのままの姿で異世界に行きます。その際に特殊能力やロボット、武器等スペシャルなものを貰えるパターンが多いですね」

「死んで異世界に行くか、死なずに異世界に行くかの違い?」

「というよりは異世界で違う容姿、種族になって冒険するか、現実世界の自分のままで冒険するかの違いの方が大きいですかね。王道は異世界転移の方で僕らの産まれる前からあるジャンルで名作も多いです」

「俺達よりちょい上の世代だと『竜神英雄伝ワタル』とか『OK騎士ラムネ&80』とか『魔人王グランドゾート』なんかがあったな」

おおー!この辺は逆に俺も知ってる。おもちゃとかプラモデルもあったやつや!

「でも最近はヲタクの高年齢化や自分自身にコンプレックスが多い人が多いのか、転生して冒険する作品の方が多いですね」

まぁ・・・俺だってすでにおっさん。自分に近しいキャラの方が思い入れしやすいとは言え、おっさんのまま異世界に飛ばされたら正直困るよな。

「異世界転移の有名どころは『Reゼロから始める異世界暮らし』や『この素晴らしい世界に祝砲を!』、『ノーゲーム・ノーライブ』、『ゲート』、少し古いですがアニメだけで完結している作品なら『ゼロの魔法使い』なんかもありますね」

さすがに今1番人気があると言われてるジャンル・・・怒涛のように作品名を挙げられるけど、追いつけそうにないな。

「どれも面白いけど、『ゼロ魔』以外は全部アニメ視聴後に原作を追いかけなきゃならんのがツライわな・・・ちなみに全部原作持ってるわ」

「まぁそうなんですけどね・・・ただ『Reゼロ』、『このすば』辺りは未だに人気があるのでまだまだ映像化の期待は出来そうですけどね」

「ケンイチが言う通り、アニメの後を知りたきゃ小説や漫画買えって最初から言われてる作品はちょっと・・・手を出し辛いかな」

俺も正直な感想を伝える。

「いや、全然アニメ単体で見ても楽しめますよ!僕なんかは滅多に原作まで手を出さないし」

だよな!いちいち全部の原作買ってたらキリがないよな。

「ケンさんは逆に気になったら原作に手を出すハードルが低すぎるんですよ!しかもすぐに「原作は~」ってマウント取ろうとするし。だから原作厨って言われるんですよ」

「待て待て!マウントなんか取ってないよ!気になったらすぐに原作を買うってのは否定しないけど」

そうは言うが、この短期間でもケンイチが原作、原作って言ってるのはよく聞く気がするがね。

「それに原作を買いたくなるくらい素晴らしい作品に出会える事自体が幸運だからね!その作品が今後も何かしら展開していくためのお布施でもあるのよ」

そういう考え方もあるのか。

「あと、俺が言うのもアレやけど、アニメで完結してないから手を出さないってのも勿体ないかな」

「ですね。よっさんはまだアニメを見た本数が圧倒的に少ないから、アニオリとかアニメだけで完結している名作から見ていくのはありですが、アニメだけで完結してない作品は見ないとかは意識しない方がいいですね」

「了解。その辺りはオススメしてもらった中で考えてみるわ」

「これまで説明した異世界転生と異世界転移は異世界に行く姿、状況こそは違えど、基本的には現代の地球の知識を現地の中世くらいの異世界人に見せて、俺スゲー!するのが醍醐味です」

なんだよその卑屈な醍醐味は・・・

「現代における戦争の戦術はもちろん、料理や建築、服、農業の知識・・・ありとあらゆるモノで現地民にマウントを取りに行きます」

「よくマヨネーズも作るよな」

「なぜマヨネーズ?」

「卵と油とお酢という異世界でも集められそうな素材で、異世界にはなさそうじゃないからじゃないですか?」

「味噌とか醤油とかもな!味噌なんか平安時代からあるっての」

「まぁタイムマシーンで昔に行って、現代知識で無双したいって願望がみんなあるんじゃないですか?そこに異世界ファンタジー的な美少女がいればなお良し」

「やな。近未来の異世界に転生するパターンはほぼないもんな」

人気が出る理由はなんとなくわかったが・・・あえて言われるとなんか世知辛いな。


「さて、最後はゲームの世界に入ってしまった系ですね。こちらは今までの2つとは少し違うのですが・・・」

そう言えばこの話まだ終わってなかったな。

「何か理由があってゲームの世界に閉じ込められて出られない、ゲームからの脱出方法を考えるってのが王道ですが、派生で死んでゲームの中の世界へ転生とか、そもそもフルダイブのゲームの世界を楽しむだけで出入り自由ってのもあります」

うーん・・・それってただゲームをしているだけなんじゃ・・・

「このジャンルってそもそも面白いん?」

俺は素朴な疑問をぶつける。

「やってる事は剣と魔法の世界のファンタジーでもベースは近未来のフルダイブゲームの中に閉じ込められるSF設定なので、より現実感が出るんですよね。自分達もいつかは体験できるんじゃないかと思わせてくれるところが人気なんだと思います」

そういう良さがあるのね。

「さらには馴染みのあるパラメータやスキルという表現が書き手も読み手もお互いのハードルを下げる事が出来るので、めちゃくちゃ流行ってると思います」

「まぁこのジャンルも10年くらい前からあるけど、未だにゲームの世界に入り込める技術はないけどな」

「出たら買いますよね!」

「もちろん買う!」

たしかに面白そうではあるな。俺も欲しいかもしれない。

「ただ、このパラメータオープン、スキル発動!レベルアップという演出を流行らせた事には正直功罪があると思います」

「まぁ・・・ね。ゲームが題材の作品なら全然問題ないと思うけど、最近は普通の異世界作品でもパラメータとかあるもんな」

「正直、普通の異世界ファンタジー設定でパラメータオープンだのスキル獲得、レベルアップだのやられたらいっきに冷めます」

「基本的には同意するけど・・・うちの子供はそういうの・・・『転スラ』とかめっちゃ好きやで」

「やっぱり、そうなんですか?」

「多分、俺達にも今までずっと見てきたファンタジーのルールがあるように、今の子達にはステータス、スキル、パラメータがファンタジーの基本、ルールになってるんじゃないかな?」

「そうか・・・じゃあこの要素を面白くないと切って捨てるのはもうおっさんだからなんですね・・・反省です」

「『転スラ』の人気は俺達よりもっと若い子達が支えてるんだと思うわ」

そういうものなのかな。

「・・・さて、話を戻しますがこのジャンルの原点かつ頂点に君臨するのが『ソードアークオンライン』という作品ですね」

「これは間違いないな」

「ゲームに閉じ込められて出られなくなり、しかもゲーム内で死ぬとリアルの肉体も死ぬデスゲームという展開に、無双する主人公、魅力的なヒロイン達と王道の作品です」

「当時は斬新な設定だったけどね。今や王道と言われるほど似たような作品が増えたわ。この『SAO』影響はかなり大きかったと思う」

たしかに・・・この作品をきっかけにして1つのジャンルとして認識されるほど作品が増えたって事だもんな。

「もちろん今でもめちゃくちゃ人気があって計8クールで原作分を全部アニメ化されてるし、映画も3本作られて新作映画も2本控えてます」

クール?そう言えばちょくちょく出てくるクールって単語は何なんだろう?

長く続いてる作品っていうのは雰囲気で理解できるが・・・

「ちょっと待ってクールって何?」

「あー、クールってのはアニメの放映期間の単位・・・でいいのかな?1クール3カ月で1年だと4クール」

「そんな感じですかね?アニメ作品の放映期間の1番短い単位で大体12~13話くらいですね」

ふーん・・・そういう数え方をするんだな・・・また1つ勉強になったわ。

「なので『SAO』は100話近くあります」

「長いな!」

「でも未だに映画も作られているぐらい人気ですし、原作もまた続きが書かれはじめたんですよね?」

「うん。原作全部がアニメ化された後、新章が始まったな!こっちも面白いよ!」

あ・・・また原作読んでる・・・

「ですので、このジャンルで原点と言われる作品も、今1番元気があるのも『SAO』だと思うので、これをチェックしておけば間違いないかと・・・」

ケンイチも納得の様子だ。

「後は御三家的な立ち位置で『オーバードーロ』、『レグ・ホライズン』辺りも有名ですね」

「『オバロ』は今年4期目が放映されてまだ映画も控えているけど、『レグホラ』は作者にいろいろあって、今後の映像化はもしかしたら微妙かな・・・」

「いろいろって何よ?」

2人とも黙った。察しろという事らしい。

なんかわからんが察しよう。ヨシ、察した。

「さてここであらためてよっさんへのオススメなんですが・・・」

いよいよ本題やな。

「無難なところだと大人気作品で今後もアニメ展開が期待できそうな『Reゼロ』『SAO』を推したいのですが、ここはあえて・・・」

あえて??

「今現在放映されている、もしくは次クールに放映される異世界転生モノをチェックして頂きたい!」

「ほう・・・その提案はなかなか・・・」

なにが、なかなか・・・なのか。ケンイチ、お前はどういう立ち位置なんだよ。

「最初に言った通り、異世界転生のジャンルは今1番勢いがあって、毎クール何作も放映されているんですよね」

「今期も4~5作品はあったはず」

ケンイチも相槌を入れる。

「もちろんその中でも面白い作品、面白くない作品はありますが、名作とは言え、いきなり何クールも続いてる大作に手を出すよりも、サクっと12話くらいで最新の作品を見て、このジャンルが気に入るかどうか試してみてもいいかな?って思うんですよね」

この意見には俺も激しく同意する。いきなり100話は無理じゃい。

「たしかにいくら名作って言われてオススメされても8クールある『SAO』を見るのはめんどくさく感じるわ」

「俺もいつかはチャレンジしようとは思ってるけど『銀河英雄列伝』を最初から見るのは億劫だもんな・・・」

ケンイチも同意してくれる。『銀河英雄列伝』は知らんけど。

「あとは・・・まだアニメを好きになって日が浅いよっさんに、若い世代で流行ってる異世界転生ジャンルを先入観無く、曇りなき眼(まなこ)で見て欲しいってのも大きいですね」

「たしかに・・・うちの子達みたいに案外ドハマりするかもしらんしな」

そういう視点なら・・・どんな作品も新鮮な気持ちで見る自信はあるかも。

「そんなワケで・・・今期だと『転生したら槍でした』『工業系スキルばっかり上げたら何故か強くなった』『悪役令嬢なので魔王を飼ってみました』『影の実力者になりたい!』『勇者パーティーを追放されたビーストテイマー最強種の犬耳少女と出会う』『新米錬金術師の店舗運営』・・・僕がチェックしてるのはこの辺りですかね?」

「待て待て待て!多い!そしてタイトルが長い!」

「『異世界おじさま』は?」

「アレは異世界転生のアニメをある程度見た上でのカウンターコメディですからね、よっさんにはまだ早い」

「なるほど・・・面白いねんけどな」

「よっさん、どれか気になったのあります?」

「わかるか!さっき言われた作品を覚えてすらいないわ!」

キレの良いツッコミが入ったと思う。

「ケンさんは今期見てて面白いんはありますか?」

「俺的には・・・『悪役令嬢なので魔王を飼ってみました』が気に入ってるかな?基本的に悪役令嬢モノのジャンルは好きやねん」

「悪役令嬢モノ?」

2人の中では当然のように繰り出されるが、一般人には普段耳慣れない言葉だ。

「異世界転生アニメの中のジャンルの1つですね。さっき言った大きな3つの種類分け以外にも細かくジャンルがあって代表的なものだと「俺TUEE」「追放モノ」「スローライフ」「悪役令嬢」みたいな感じかな」

なるほど、わからん。

「ざっくり言うと「俺TUEE」は転生後の能力が強くてひたすら成り上がって行く話、「追放モノ」は実力はあるのに何故か認められずに仲間から外され、その後実は有能でしたーっとなり、追放した先を見返す話・・・」

ふむふむ・・・

「「スローライフ」系は強い力は持つものの積極的に戦わず、のんびり暮らしたり料理をしたり農業したり薬局開いたりする作品、「悪役令嬢」はゲームの世界の主人公ではなくて悪役の方に転生してしまって、その運命を塗り替える話ですね」

「今期だと『槍』『工業』『影』が「俺TUEE」、『ビーストテイマー』が「追放」、『錬金術師』が「スローライフ」、『悪役令嬢』が「悪役令嬢系」になるのかな?」

ケンイチは一瞬で理解しているようだ。

「まぁ厳密にジャンル分け出来るワケではないんですけど、だいたいそんな感じで問題ないと思います」

「知樹はどれが気に入ってるん?」

「僕は・・・『転生したら槍でした』かな?王道の俺TUEEですし、テンポも良い。カレーだのなんだの現世の知識を披露するのもベタだし、主人公も可愛いですしね」

「とは言え、転生モノの醍醐味である美少女ハーレムがなくて、ヨシハルに魅力を伝えきれるのかな?」

なんだよ、ケンイチも見てるのかよ。

「たしかに・・・じゃあ『影の実力者になりたい!』でしょうか?いや、でもあれは王道って感じではないですしね・・・」

「「悪役令嬢」も俺は好きだけど、1番最初に手を出す作品って感じではないよな・・・」

なんか2人が悩んでしまった。

「もっと主人公が俺TUEEしてて、ヒロインがいっぱいいて、王道のやつないですかね」

「『ソードアークオンライン』じゃね」

原点に帰ってきたようだ。

「うーん・・・まぁとりあえずサクっと新しいめの異世界転生モノを見てみるのがオススメって事ですよ!僕達も知らない未来に期待・・・みたいな?」

「よし!それでいこうぜ!」

うわぁ・・・最後はぶん投げやがった!今までのプレゼンはなんだったんですかね?

異世界転生のジャンルは奥も幅も広すぎてなかなか2人でも答えが出せないようだ。

しかし彼らも知らない未知の作品を、彼らと一緒ににこれから探求していくアニメ道も楽しそうである。

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