第5話 ラブコメ

「次はラブコメアニメを語らせて欲しい!」

ケンイチがビシっと挙手する。ははーん、こいつすでに酔ってご機嫌モードに入ってるな。

「きましたね・・・恋愛脳のケンさんの得意ジャンルですもんね」

「まぁ・・・否定はしないけどね」

知樹はけっこうトゲのあるイジり方をしてるけど、当のケンイチは全く気にしていないな・・・2人でアニメの話をする時はいつもこうやってじゃれ合ってるんだろうか。

「じゃあケンイチ的にはラブコメアニメは何がオススメなん?」

俺はさっそく単刀直入に聞く。

しかし、こいつらは生粋のヲタクだ。絶対に話が右往左往して長くなる確信がある。

「とりあえずは・・・『どらドラ』をおさえたい」

ほらね。初手が”とりあえず”だもん。

「うーん・・・ケンさんは絶対にまず『どらドラ』を出しますけど、そこまでの作品ですかね?もちろん名作の1つだと思いますが、結構古いし、ずっとラブコメアニメを見続けてるケンさんがそこまでこだわるほどかな?って思いますが・・・」

「まぁ・・・ね。でもまずはラブコメアニメはそもそも難しいという話をさせて欲しい」

んんん?突然何の話だ?

「聞きましょう」

知樹は前のめりになって聞く体勢に入る。

やはりこの話・・・聞かなきゃならんのか。

「まず前提としてラブコメ原作は長い」

ケンイチの語りが始まった。

「出会って、ケンカしたり惹かれ合ったりしながらゴールを目指すわけなんだけど、その道のりが険しく遠いほどハッピーエンドが輝く。その過程にちょっとした寄り道、無駄なエピソードも積もり積もって思い出になる。」

ケンイチが饒舌に話し出す。エンジンが掛かってきたみたいだ。

「なのでアニメ化される場合、最終話・・・2人のハッピーエンドまで映像化される事がかなり少ない。原作人気のあるラブコメがアニメ化されても、中途半端な所でアニメが最終回を迎えて終わってしまうのがほとんどやねん」

それは・・・たしかにアニメ勢には消化不良になりそうだな。

「逆にアニメオリジナルで1クールくらいのラブコメを作ってしまうとどうしても薄味になって魅力的な作品が作れなくなる。これがまず1点目」

いくつあるんだろうか・・・

「2点目・・・ラブコメには当然の事ながらヒロインの魅力が必須になわけだが、人気の作品には魅力的なヒロインが複数いる場合も多く、ヒロインレースをした場合に選ばれないヒロインが出てきて、自分が推していたヒロインが最終的に選ばれなかったヲタクは最終回の後、その作品を語らなくなる。特に原作とアニメに時間差があるとアニメで最終話まで映像化されても、前はめちゃくちゃ話題なったのに最終回はイマイチ盛り上がらなかったなという印象の作品は多々ある。」

そういうものなのか・・・たしかに自分のお気に入りのヒロインが主人公にフラれたら悲しいよな。

「だからラブコメアニメで名作と呼ばれるものは魅力的なヒロインが多く出てきても主人公はブレずに単独ルートの場合が多い。」

ふーん・・・そういうものなのかな?

「ではここで『どらドラ』に話を戻しますが、この作品に関しては原作10巻分が最後までアニメ化されている上に、原作終了時のタイミングとアニメの最終話をほぼ同時に放映するという奇跡が起こっています。実は原作とアニメで最終話が違うのですが、どちらも素晴らしい」

なんか早口の敬語になってきだぞ・・・これがヲタクの性ってやつか。

「そして当初は主人公とヒロインお互い好きな相手が違うのですが、タイトルの『どらドラ』で示されているようにこれは2人の物語。中盤以降2人は惹かれ合い、決められていた単独ルートに行くのでファンの分断が少なく、2人のハッピーエンドをみんなが祝う事ができるのです!」

タイトルで示されていると言っているが、俺にはさっぱりわからんぞ。

「ふむふむ。ケンさんが言いたいのは原作を全てアニメ化されている上で、最初からヒロインが決まっているラブコメアニメはかなり貴重という事なんですね」

ケンイチが早口で語っていたウンチクを知樹が一言でまとめやがった。

「たしかに『俺姉』も白猫がフラれた後は荒れましたもんね・・・」

「アレはタイトルに姉が入ってるから最初から単独ルートだったと言えなくはないんだけど・・・白猫があまりにも人気になり過ぎた・・・俺も3日くらい寝込んだもん」

アニメキャラがフラれたくらいで寝込むな。

「『六等分の花嫁』も誰が選ばれるかまでの方が盛り上がりましたもんね。ちなみに僕はサツキ派」

「俺はイチカかな」

「1番最初に負けヒロインムーブかましてたやつじゃないすか・・・ホント見る目ないっすね」

知樹はケンイチに対してちょいちょい辛辣な言葉を吐くよね。

「でもね。俺達くらいのヲタクになると自分の推しのヒロインが敗れても、いいよ!じゃあこっちのヒロインは俺の嫁にするから!ってメンタルになれるからヨシハルも心配せずに自分の気に入ったヒロインを推しても大丈夫やで!」

なんの心配なんだよ。

「改めて聞きますけど、ケンさん的には『どらドラ』以外にオススメできるラブコメアニメってないんですか?」

それを俺も聞きたい。でもここまでの話題の中心だった『どらドラ』を見るのが無難な気もするが。

「もちろんあるよ!個人的にオススメしたいのは『冴えない彼女の作りかた』とか『からかい上手の高橋さん』とか『かぐや様は告白されたい』とかが最近だと凄く良かった」

「あれ?『かぐや様』って最終回までアニメ化されてましたっけ?なんかつい最近原作が最終回になったってどこかで見た気がするんですけど・・・」

知樹が疑問をぶつける。

たしかに先ほどのケンイチの主張ではきっちりアニメでハッピーエンドを迎えないと認めないという感じだったと思うが。

「『かぐや様』はちょっと例外になるんだけど・・・この前アニメ化された文化祭編でお互いの気持ちを確認し合って1つの結末を迎えてるんだよね」

ああ、キリの良いところまでアニメ化されたからオッケー的な感じか。

「そしてその先の原作がちょっとパワーダウンするというか、蛇足的というか・・・全体見ても文化祭編がクライマックスで一番盛り上がるから、この先はアニメ化しない方が、名作として語り継がれる可能性がある、まである」

原作勢にアニメ化を望まれていないってどういう状態なんだよ。

なんかゴニョゴニョ言いながらも次の作品の話にシフトするケンイチ。

「『からかい上手の高橋さん』よくある〇〇さん系の漫画の中では原点にして頂点って感じの作品かな」

「まず〇〇さん系ってがわからんのだが」

とりあえずの疑問をぶつける。

「カップリングが最初から決まってて、その2人の微妙なイチャイチャをニヤニヤして眺める系・・・ですかね?」

それは・・・面白いのだろうか?

「ストレスフリーで見れるのが魅力的かな。『からかい上手の高橋さん』も厳密に言えば原作、スピンオフの全てがアニメ化されてないけど、劇場版では結婚後の2人が出てきたり、そもそも約束されたハッピーエンドがあるから、アニメだけを見てもしっかり満足できると思うわ」

まぁケンイチ的には基準を満たしている・・・と。

「『冴えない彼女の作りかた』は序盤に何も特徴のないヒロインに対して金髪ツンデレ幼馴染、黒髪ロング先輩、ボーイッシュな従妹等の魅力的なヒロインが大量に出てきて主人公がハーレムを形成するわけだが・・・」

「もはやテンプレ過ぎて個性死んでそうですけど、面白いんですか?」

「個性のなかったヒロインが主人公を意識し、自分の中の好意に気付いて、どんどん魅力的になっていく仕掛けが物語自体にしてあって凄く面白い!アニメ版は声優さんの演技も良くて、ヒロインがわざと抑揚のない演技をしてるんだけど、後半はその抑揚の無さの中ににじみ出る感情が読み取れたりして素晴らしいんだよな!」

なんか王道なラブコメって感じやな。

「なんか王道なラブコメって感じですね」

な!同じ事思うよね。

「ちなみにベースはヲタクの主人公がクリエイターになっていく立志モノでもあります」

「ですよね!やっぱそういう要素は欲しいですよね」

「そうよな。そう言われた方がまだ面白そうに感じるわ」

少し興味は出てきた。

「『冴えカノ』は原作ラノベですでに完結済み。アニメは3クールと劇場版で最終回のエピソードも映像化されているので、是非オススメしたい」

「僕も見てみようかな?」

知樹も興味を持ったようだ。

「好きになったら原作にはアニメ化されていないエピソードもたくさんあるのでそちらの方の購入も是非」

やっぱこいつ原作厨だわ。


「あともう1つヨシハルにオススメしたいラブコメアニメがある。これは自信を持ってオススメしたい」

「お!ケンさん・・・対よっさん用の隠し玉があるんですか?」

「まーね」

何やら自信ありげだが・・・ケンイチがここまで言うなら期待出来そう。

「もったいぶらずに教えてや」

「オケオケ!ヨシハルにオススメするのは・・・『ハイスコアガールズ』!」

「あー!たしかに!」

知樹も大きくうなずている。これは・・・楽しみだ。

「どんな内容なん?」

「簡単に言うとゲームがめっちゃ上手い女の子と、ゲームがめっちゃ好きな男の子のラブコメやね」

「それがなぜ俺にオススメなん?」

「その題材にされているゲームのほとんどがアーケードゲーム・・・ゲームセンターのゲームで、時代背景が俺らの学生時代とドンピシャやねん」

「学生時代のゲーセンっていうと・・・『ストリートファイト』とか『キングオブジファイターズ』とかの話なん?」

「まさにそう!」

おお!これは・・・俺達は小学生の時には近所の駄菓子屋に小銭を握りしめてゲームをプレイし行き、中学や高校でもとりあえず暇があったらゲーセンでも行くか・・・となっていた世代である。ドンピシャ過ぎる。

「その辺りのゲーム描写を見るだけでも、めちゃくちゃテンション上がって楽しいし、そのゲームを通して・・・いやゲームを通してでしか繋がらない心がエモいんよ・・・」

「それは見てみたいな!」

たしかにこれは凄く見たい。

「テーマがかなりピンポイントなだけに刺さらない人も多いと思いますが、よっさんにはぶっ刺さると思いますよ」

「しかも2クールでキッチリ原作の最後までアニメ化されているから、アニメだけでも安心ダヨ」

それは素晴らしいな!

「あれ?でも『ハイスコアガールズ』ってまた最近原作の続き出てませんでした?」

「あれは・・・別に気にせんでいいよ・・・」

ケンイチがボソっと呟く。

いったい何があったのか。

「とりあえずヨシハルには是非『ハイスコアガールズ』をオススメしたいね」

これ何気に今までで紹介してもらったアニメの中で一番見たいと思った作品かもしれない。


ケンイチがそのまま話を続ける。

「まぁ他にも面白いラブコメアニメはいっぱいあるんだけどね・・・今年だけでも『その着せ替え人形を愛してる』とか『恋は宇宙征服のあとに』とか・・・でも好きになったら結局は続きは原作を見てねってなるからさ・・・」

「ケンさん的にはアニメだけで完結しないと完成されたラブコメアニメとは認めないと」

なんかこだわり強くててウザそうなヲタクだな。

「いやいやそういうわけじゃないけど、ヨシハルに自信を持ってオススメしにくいだけかな?ちなみに俺は『その着せ替え人形を愛してる』も『恋は宇宙征服のあとに』も原作に手を出すハメになったから」

おおう・・・これが原作厨と呼ばれる所以か。

「まぁたしかにアニメだけが好きで、原作の小説と漫画は手を出さないヲタクも多いですからね」

「俺も続きの小説も読まないと2人のその後はわかりませんよって言われたら辛いかな」

俺も素直な気持ちは伝えておく。

「そういう感じでアニメだけで2人の結末を完結できるラブコメアニメを紹介してみました。ご清聴ありがとうございました」

終わったか・・・それにしても目をキラキラさせながら饒舌に語るケンイチは気持ち悪・・・いや、面白いな。

とりあえずは『どらドラ』を見てみようかな。古い作品とは言っていたけど、そもそも俺が好きになった『けいおんぶ!』もかなり古い作品だしな。

その後は・・・ケンイチ基準だと『冴えない彼女の作りかた』辺りが面白そうだ。

俺は『けいおんぶ!』のように女の子がイチャイチャしていれば、そこまで恋愛要素は必要としないタイプかもしれないが、友人が目をキラキラ輝かせながらオススメしてくれたアニメを見るのも、これから始まるヲタク道には大切な事だと思う。

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