第9話
朝、アマンダが居ないことに気が付いたアランとヨーランは、町中を走り回って彼女を探した。しかしいくら探しても手掛かりが見つからない。
「アラン様、もうよろしいのでは?」
「何がだ」
「アマンダ殿は別の目的を見つけて、もうどこかに行かれたのではないでしょうか」
「でも……、アマンダさんが僕たちに何も言わずに、姿を消すとは思えない。そんな人じゃないって僕は思ってる」
「アラン様、彼女を信用されているのは分かりますが、彼女は盗賊です」
「元、だ。もしかしたら何か問題に巻き込まれているのかもしれない。あそこのパン屋に聞いてみよう」
「アラン様……」
幸運な事に、偶然見つけたパン屋の店主がそれらしい人を見たと言う。
「うちは朝が早いんだが、早朝店の準備をしていると、向こうの路地裏に男女が入っていくのが見えたんだ」
「男女……ですか?」
「ああ。ここは花柳街が近いからそういう人たちかと思ったんだが、どうも動きが怪しくてな。なんというか……盗人みたいな動きというか……」
その後も色々聞き取りをしていると、アマンダの容姿と一致するところがあったので、一か八か彼女が向かったであろう路地裏に向かう。
その路地裏を抜けた先には、一軒の古びた民家があった。不思議な事にその民家、玄関前に見張りらしき人物が二人も居るのだ。
「まるで悪人のアジトのようですね。アラン様、自分があの見張りを潰してきます。あなたはここで待機していてください」
「普通にアマンダさんは居るのかって聞いたら駄目かな?」
「何馬鹿なことを言ってるんです。逆に怪しまれます」
ヨーランはショボくれている
「誰だ? おめぇ」
見張りの一人が言葉を発したその刹那、ヨーランは目にも止まらぬ速さで鞘ごと引き抜いた剣を振り抜き、二人の見張りをあっという間に気絶させる。
「す、すごいなぁ」
「さて、アラン様。中にまだ何名か居るようです。なので自分が中を制圧してきます。アラン様はこの見張り達を縛って、見張っておいてください」
「でもヨーランだけに行かせるのは……」
「大丈夫です。むしろ主であるあなたが怪我をされる方が、私には問題です。だから信じて待っていてください」
そう言ってヨーランは、賊のアジトに単身突入していった。
「何だ! お前!」
「取り押さえろッ!」
部屋へと押し入ったヨーランは、身に着けている鎧の重さを感じさせない軽快な動きで賊たちを制圧していく。
振り払われた剣を見事な跳躍で躱し、投げられたナイフはテーブルを起こし盾として使うことで無効化する。
ヨーランの強さに恐れおののいた賊の一人が外に向かって逃げ出した。ヨーランは逃げ出した賊を最優先に狙って走り出す。
短い助走で目の前の賊を踏みつけ、壁を蹴り、華麗に宙を舞って、賊の頭上を飛び抜けざまに首を狙う。
その後も着々と制圧していき、ものの数分で中にいた賊を全員制圧し終える。
「なんの騒ぎだ!」
建物の奥から、やたらがたいの良い大男が姿を現す。
「お前がリーダーだな?」
「そうだ」
「アマンダ・ハリアンという女性を知らないか?」
「知っているも何も、ここに居る」
大男の言う通り、奥からアマンダが出てくる。アマンダはヨーランに目線を合わせようとしない。
そんなアマンダを気にする事無く、大男は拳を鳴らしながらヨーランに近づく。
「何処の騎士様か知らねぇが、邪魔するってんなら容赦はしねぇ」
「自身の技量も測れぬ者よ。そこをどけ」
「うるせぇ!」
大男が殴り掛かって来ると同時に、ヨーランは剣を鞘から引き抜き、突き出された拳を下から突き上げる。
打ち出された拳は剣に貫かれ、ヨーランの眼前で止まる。
「ぐあああ!」
「貴様に用は無い」
「下がれ。こいつは私が相手する」
拳を剣から引き抜いた大男は、アマンダの指示に従って大人しく奥へと消える。
「どうしてここに来たの?」
「あなたを探しに来ました」
「あら、それは嬉しいわね。坊やも一緒?」
「ええ。ですから戻りましょう」
「……無理ね」
すると突然、奥から男女の悲鳴が聞こえてきた。その悲鳴にヨーランは眉をしかめ、怒気を孕んだ声で話す。
「奴隷ですか……」
「そうよ。別に魔人だから問題無いでしょう?」
「ええ。自分も魔人に対して情などありません。ですが―――」
ヨーランは気持ちを整える為、深呼吸をして一拍置いてから答える。
「
「坊やらしいね……。でも魔人は私たちの敵だよ?」
「自分もそう思います。ですがアラン様が彼らを気にする気持ちも分かります。彼らもまた、自分たちと同じ人間です。ならば助けるに値するでしょう」
「そうかい。そんなに正義の味方ごっこをしたいんだったら勝手にしな。でもねここから先は容易く通れると思わないことだね!」
そう言ってアマンダはナイフを取り出し、ヨーランに向けた。
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