第6話
修行の旅に出たアランとヨーランは、領外を目指して南下していた。
「アラン様、それは?」
ヨーランは、アランが手にしている手紙を見て尋ねる。
「これは父上のお使いだよ。マレニア共和国のロルフって人に渡してくれって」
「なるほど。それでは、それは商品の発注書あたりですかね?」
「多分ね」
マレニア共和国。通称、妖精の国。
アラン達、オールソン家の領地があるヘレーリア王国からニグラス山脈を挟んで南に、巨大な広葉樹林が広がっている。この森の中央部がマレニア共和国だ。
この国の住民は全て
そのマレニア共和国とヘレーリア王国は、互いに国交を結んでおり、ヘレーリア王国の中でもオールソン領は最南部に位置する為、マレニア共和国との橋渡し的な役割を担っている。
「アラン様、もう少し行くと国外です。戻るなら―――」
「いや、行くと決めたんだ。大丈夫だよ」
「……分かりました」
二人は順調にヘレーリア王国を出て、ニグラス山脈に向かう。その麓に大きめの町があるので、まずはそこを目指す予定だ。
歩いていると、涼しい風が肌を撫でる。
今は暖期から寒期へと移り変わる季節で、道行く草木は青々と生い茂っている。そしてその葉や枝の隙間から時折、木の実が顔を覗かせている。
小鳥は空を元気に駆け回り、見上げた空には手を伸ばしても届かない位置に雲が流れている。耳を澄ませば遠くから小川のせせらぎが聞こえてくる。
「いい日だ……」
「アラン様。だいぶ早いですが、今日の野宿の準備をしましょう。初めての事ですから、暗くなってからでは遅いでしょう」
「そうだね。さっき水の流れる音が聞こえたから、どこかに小川でもありそうだよ」
「では、その音の方向に行ってみましょうか」
二人は道を外れ、近くの丘を上る。すると案の定、丘を下ったところに川が流れていた。
「あそこにしますか」
「うん」
丘を下り、テントの準備をしていると、下りて来た丘の方向から足音が近づいて来る。偶々それに気づいたアランは手を止め、ヨーランに目線でこれを伝える。
ヨーランは柄に手を掛け、安全の為アランに近寄る。
しかし、足音に注意を向けていた二人はすぐに臨戦態勢と解くことになる。
丘のてっぺんから顔を覗かせたのは、一人の女性だった。
「あら? 先客がいるみたいね」
女性は丘を下ってアラン達に近寄る。
「あなたは……」
「私の名前はアマンダ。アマンダ・ハリアンよ。そっちは?」
「僕は―――」
名乗ろうとしたアランを、ヨーランは前に出て制する。
「何か、ご用ですか?」
「あら、失礼なお人。疲れたから休みに来ただけよ。それで? そちらは名乗ってくれないのかしら?」
「………ヨーラン・リンデルです」
「僕はアラン・オールソンです。よろしく」
アランは握手をしようと手を差し出す。その差し出された手を驚いた顔で見つめていたアマンダだったが、すぐに手を取って握手を交わす。
「よろしくね。それで……二人は見たところ、旅の途中のようね。どこか目指してるの?」
「そう言うハリアン殿は―――」
「アマンダで良いわ。き・し・さ・ま」
「……アマンダ殿は、盗賊のようですが?」
「あら、警戒させてしまってごめんなさい。元盗賊だけど、今は足を洗ってあなた達と同じ旅人よ?」
「そうですか。そういうことなら」
アマンダの事情を知り、ヨーランはアランの後ろに下がる。
「僕たちマレニア共和国に向かってるんです」
「妖精の国に? 何故?」
「んーっと……、お使いを頼まれてるんです」
「森にお使いねぇ……。どんな親なのかしら。けど……そうねぇ。私も同行して良いかしら?」
「良いですよ?」
「アラン様!」
「いいじゃんヨーラン。旅は道連れって言うし」
「しかし……。まあ、あなたがそれで良いなら……」
「ですって!」
「即答なのね……。普通、もう少し考えたりするものだけど……。確かにこれじゃあ一人では無理ね」
「全くです……」
頭を傾げるアランを余所に、アマンダとヨーランは頷き合う。
こうしてアランに新たな仲間が増えた。しかしこれが吉と出るか凶と出るか、彼らはまだ知らない。
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