試し読み範囲だとコメディ的な作品のように見えますが、実は結構シリアスな作品です。みんな明るくふざけているのであまりそうは感じませんが、実は一人一人に哀しき過去…があるようです。過去を乗り越え自分の本当にしたいことに気づいて覚醒する、というのが基本的な流れのようですが、彼女らはわりと自分の欲望を全肯定しヒャッハーしています。普通は折り合いをつけるとか、そういった流れになりそうなものですが。自分勝手な感じに映らず読んでいて爽快感を味わえるのは、作者の筆力のなせるわざでしょう。
この作品の良さはもう1つ、キャラクターのバランス感覚が優れていることがあげられます。この作品の残念美少女たちは、残念な性格と強力な力を持ち合わせているわけですが、それらの要素はキャラの魅力を大幅にアップさせること、物語を面白い方へぐんぐん進めるために使われています。あらすじを読んだときは、迷惑なクソ女のピカレスクロマン的な感じの小説になるのかと思っていましたが、全然違いました。邪道ではあるが外道ではないといった感じで、彼女たちの奇行をわりと安心して眺めることができます。
(まとめ)涼宮ハルヒ以来12年ぶりのスニーカー文庫大賞受賞作品という、そのあまりにも重すぎる期待を全く裏切らない、非常に完成度の高い作品です。エンタメにもいろいろありますが幅広く大衆に向けたエンタメという点で見ると、この作品は頭一つ二つ抜けているように思います。何かエンタメを摂取したいときはとりあえずこれを選んでおけば損はしないでしょう。