無味無臭のSさん

 昔、変わった人がいて、仮にSさんとする。

 Sさんは、霊能者なのだが、どういうわけか食べたものがみな、味がなくなるという。それは味だけでなく匂いもそうだ。味覚や嗅覚音痴かそれとも病気的なものかと思ったのだが、実際にSさんが口にした後の残ったものを食べたことがあるのだが、どういうわけか味が全くしないのである。そのとき口にしたのはカレーだった。カレーと言ったら辛いとかツーンと来る香ばしいスパイスの味を重い壁るだろうが、このとき無味無臭なのだ。何度味わっても味がしない。まるで水そのものをすすっているみたいだ。

 そこで、検証としてココアを買ってきて飲ませてみた。すると、どういうわけか残ったココアをもらって飲んだところ綺麗に味も臭いもなくなっている。まるでココアという飲み物が一瞬にして水に変わってしまったという感じだ。それも味もしない水。天然というよりも人工的に味を消したような水に生まれ変わっていた。

 なんということか。Sさんが口にしたものはすべて無味無臭となる。こんな不思議な人は早々出会えることはないだろう。

 Sさんと一緒に仕事していたのは一年ほどで、その後、急にいなくなったため、行方知らずだ。Sさんのことをよく知る人もいなくなったため、所在はわからずじまいである。

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