Oさんの夢

 山の頂上にアパートがあった。およそ六階建てて築20年以上は経っていそうな見た目だった。エレベーターはなく階段で六階まで上るのは当時は苦痛だった。

 そのアパートへ何しに行っていたのか正直あまり覚えていない。ただ、そのアパートに知っている人がいてその人に会いに行っていたんだと思う。小学生ぐらいの時だった。ただ、小学生で親も連れずに一人で行っていたと考えるとよく犯罪に巻き込まれなかったなあとつくづく思う。

 そのアパートの五階には知り合いがおり、お姉さん的な人(以降、Oさん)だった。その人はぼくのことをよく知っていたし、ぼくもその人のことを知っていた。

 ある日のこと、その人は明日、結婚式だって喜んでいた。明日の準備に忙しいのか、その人はそう告げるなり、また、来てねと言われ、この日は中に入らず別れを告げた。

 それから永らく覚えていないのだが、中学生になるころ、ふと思い出していた。どうして長い間忘れていたのか自分でさえも覚えていない始末だ。家族の事情とか個人の事情とか関係なくそのことを忘れてしまっていた。

 思い出したのは夢での出来事だった。Oさんは、風呂場に倒れていた。真っ黒な浴槽の中で悲しそうに泣いていたのだ。どうして、泣いているのか聞こうとしたとき、Oさんが急に手をわしづかみして「殺してやる!!」と叫ばれ目が覚めた。それで初めてOさんのことを思い出したのだ。

 それにしてもなぜ、Oさんに殺してやると言われたのか腑に落ちない。そこで、Oさんに会いに行くために山にあるアパートまで行くことにしたのだが、どういうわけかそのアパートと思わしき場所へ行くことができない。マップ上には存在せず、なおかつそんなアパートがあったなんて検索履歴にも画像もなかった。

 そして、再び夢の中でOさんに会った。

 ただ、Oさんは風呂の中でバラバラの死体となっていた。ぼくが触れようとしたとき、誰かにわしづかみされた。振り向くとそこには生前のOさんがおり、ぼくに過去に何があったのかを見せてくれた。


――Oさんの記憶の中の出来事

 結婚式当日、準備を済ませていると、玄関のチャイムが鳴り、彼かと思い確かめることなく扉を開けた。すると、そこにいたのは顔も名前も知らない男だった。

「許さない」

 男はそう言って、襲われたという。

 Oさんは、バラバラになった自分の死体を見て、男が血まみれになりながら去っていったのを見ていたそうだ。そして、その風貌がぼくそっくりだった。ただ、外見だけで背丈や服装、年齢、顔つきは全くの別人だった。


 Oさんはぼくを憎んでいるようだった。可愛いと接していたはずなのにどうして殺したのか、そしてどうやって殺そうとしたやろうかと。Oさんは怨霊に変わり果ててしまっていた。

 Oさんは、ぼくを憎み、そして殺そうとしていたようだった。けど、その姿とぼくと比べて違うと分かったのかすぐに開放してくれた。けど、Oさんは「殺した相手を見つけてほしい」とぼくに頼むと、そのままアパートごと消えてしまった。


 夢であったはずが、手首にはしっかりと握られた跡が残っており、これは夢だけでは済まされないものだと思った。だけど、大人になった今でも、その男の行方が分からないだけでなく、どうしてOさんと知り合えたのか覚えていないということだけがいまに残る。

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