宝山
心霊スポットと謳われる宝山。昔、金銀財宝が発掘されたとか、鉱山として活用されていたとかいろいろと噂があるが、その名前の由来はただ、宝という名前の人がこの山を持っていたことからこの名前がついたと聞いている。
オカルト好きなKに呼び出される形で宝山の駐車場前で待っていた。この山は登山にでも使われるため駐車場はちゃんと整備されていた。
Kが来たのは少したってからだった。Kは厚着姿で明らかに念入りに準備してきたぞと言わんばかりに重装備で来ていた。大きなリュックの中には何が入っているのかはあえて聞かずに上ることとなった。
この山は標高500メートルで冬でも上ることができる。比較的に上りやすいと言われているが、毎年この山で道に迷う人がいるとも言われ、その怨念かさ迷う人々は後を絶たないとか。そんな噂に食いついたKは登山しようとおもむろに打ち明けたのだ。それがちょうど山を登っているときに打ち明けたもので、準備してこなかったぼくにはまるっきり自殺願望者にしか見えない事だろう。
山を登っていると、何人かとすれ違う。桁外れに軽い服装に装備品はなにもつけていない僕を見た人々が、止めようとしているのか気になる様子。だけど、Kは「話しかけられるなんて大人気じゃん」と羨ましそうに言ってくるのである。お前のせいじゃ、ボケイとも腹の底から叫びたい気持ちでいっぱいだ。これは展望台までにとっておこう。
山のちょうど半分である展望台についた。とくに違和感もなければその噂は本当なのかという出来事でさえも遭遇しなかった。さすが、山の中腹ともいえるせいか少し寒い。気温は登山口から7度ほど低くなっていた。この装備だし、帰りたいと言うと、「そうだな、帰ろうか」とあっさり承諾した。普通なら最後まで登りたいという彼なのだが、このときばかり変だなと思った。
山を下っていると、Kがおもむろに口を開いた。
「この山の噂はな、登るんじゃなくて下りているときに起きるんだって」
そんなことを聞こえた瞬間、霧が立ち込めた。みるみる霧は景色を隠してしまうかのように濃くなり、Kの姿は見えなくなってしまう。これはヤバいと思いKを呼ぶが、返事がないまま、ひとり取り残されてしまった。
その場でうずくまっていると、誰かが通ったような気がして、顔を上げた。そこにいたのは私服姿の男が立っていた。髭を生やしており、意外と整った顔をしていた。男はぼくを見るなりに「大丈夫か」と声をかけてきた。ぼくは友達と離れてしまったことを言うと、男は「案内するよ。この道はよく使うから」と駐車場まで案内してくれた。
下山していると、男はなぜ私服なのかと問うと、「ハイキングでよく来ているんだ。この山は生まれたころから知っている。遊び場のようなものだ」と、男は嬉しそうに語っていた。
駐車場まで来ると、霧は晴れて行き、次第に視界がくっきりと見えるようになっていた。駐車場にはKの姿があった。そこには捜索隊の人たちと思わしき人たちが集まっていた。
「K!」
ぼくが呼ぶと、Kはビックリしていた。捜索隊の人たちもびっくりしていた。
「お前、どこ行っていたんだよ」
ぼくは、霧が立ち込めて動けなくなっていたところを男に助けてもらったと話すと、捜索隊の人たちは顔を見合わせてこういった。
「おそらく宝さんだろう」
捜索隊の人たちはその人が誰なのか知っている様子だった。詳しく聞こうとすると、Kも気になるのか輪に入っていた。
「この山の持ち主は宝山さんていう人で、その人は運悪く数年前に下山中に滑ってなくなってしまったんだ。いつものようにハイキングのつもりでいっていたらしい」
どうやら、その日は霧で視界が見えなくなるほど曇っていたらしい。その間に事故にあったようだ。捜索隊の人曰く、この山で道に迷った人たちは宝山さんによって無事に戻ってこられるらしいとのことだ。
あのとき、宝山さんが嬉しそうに言っていたのは、本当にこの山のことが好きだったのかもしれない。
この山が宝山と呼ばれるきかっけになったのは彼のおかげだという。今もこの山に迷い込むと宝山さんが現れて無事に家に帰してくれるのだという。
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