第16話
「うっひょー遅刻遅刻!セーフ!」
「ギリギリアウトですよ、椎名さん」
「そこをなんとか!」
橘先生にこう。
「駄目ですよ、椎名さん」
先生は容赦なく出席簿にバッテンをつけた。
「そんなー」
うなだれる要に、クラスメイト達はいつもの風景として笑う。
「カナカナ遅刻何回目だし」
「今日は寝坊した系?」
「ううん、風呂入ってた」
「ガチ自業自得じゃん」
「はいはい、ホームルームを始めますよ」
騒がしい教室に、パンパンと担任は手を叩いて静かにさせる。
「今日は皆さんにお知らせがあります。なんとクラスメイトが一人増えることになりました」
教室がざわめく。つまり転校生ということだ。小、中ならまだしも、高校で転校生とは珍しい。
「柴田さん、中へどうぞ」
入ってきた生徒に教室は再びざわめく。
女子は黄色い歓声を上げた。
「新しいクラスメイト、柴田アスカさんです、みなさん仲良くしてあげてくださいね」
柴田アスカ。
そう紹介された生徒。
その涼し気な顔。切れ長の目に薄く形の整った唇。白い肌、映える黒髪。脂肪のない体に、肩口から覗く鎖骨。
整った容姿にすらりとした背丈は、女物の制服を着込んでいるにも関わらず、女子の心をわしづかみにし、魅了していた。
長いまつげに縁どられた瞳がくるりと教室を眺める。
表情は硬いが、笑顔で飾らなくとも十分な魅力があった。
「柴田さん自己紹介を……柴田さん?」
担任が進行する一方、アスカはおもむろにその後方へと向かった。
皆見守る中、一人の前に立ち止まる。
立ち止まられた人物、要だけが、転校生にわくわくとした顔だった。
「あなたが、椎名要さんですね?」
「おう!」
「あなたを知りたくてこの学校に来ました」
「そうか!よろしく!」
要は差し出された手を握り返しぶんぶんと振る。
静かな無表情をたたえたアスカは、要の耳元に寄せ、つぶやいた。
「ヒーローとして」
「え?」
一瞬の緊張。
「カナカナったらすみに置けないねー」
クラスメイトの割り込みがそれを瞬殺した。
「ホント、こんな美人な子と知り合いだなんて」
要と特に仲の良いギャルたちが、要ににじり寄り割って入った。
「ううん知らんやつ」
「めんどくさい気配バリバリやんけ」
アスカへの不信に、ぎゅっと要を抱きしめる。
「要~、だいじょうぶ?なんかあいつちょっと怪しそうじゃん」
「前みたいになる前に、なんかあったらすぐに言うんだよ」
「おう!大丈夫!」
にっこにっこと能天気な要に、クラスメイトのギャルたちは小動物をかわいがるかのようになでくりまわす。
要はよく言えば分け隔てなく、悪く言えばなんにでも首を突っ込むため交友関係は広い。
幼馴染の二人と異なるクラスになったこともあり、クラスメイトのとくににぎやかな方々とは仲良しだ。
「見せもんじゃねーぜ」
その様子をじとりと見ていたアスカに、ギャルは威嚇する。
「見ていません」
「あ?」
「は?」
ギャルとアスカの間に見えない火花が散った。
「そうだ!」
緊張が高まる中、やはり要はマイペースだ。ガタンと立ち上がった。
「今度の文化祭の役、アスカも俺と一緒にすればいいんじゃね?!」
「なにを言って」
要はそうだそうしようとアスカの手を取る。
「だって俺のこと知りたいんだろ?だったら一緒の役やればいいじゃん!」
「カナカナやっさしーい」
クラスメイト達はしょうがないなー、と了承してしまった。
「いえボクはなにも」
「大丈夫!俺がちゃんと教えるから!」
「そういう話では」
「いいでしょ!先生!」
「はい。仲良くできそうで先生は安心しました。では、ホームルームはこれで終わります」
要の独断と偏見に慣れている橘先生は、アスカの困惑を受け流し、粛々と終わらせた。
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