第53話 誘拐

「ローリエが、ハバネロ帝国軍に連れ去られた?」


 私は頭が真っ白になった。なんでハバネロ帝国軍がローリエを?

 どちらかといえば、私を連れ去るべきじゃないか?


 その時、頭の中にローリエの声が響いた。


 ローリエ(サフラン、聞こえる?)


 そうだ! 結婚指輪で交信できるんだった。


 サフラン(ローリエ! どこにいるの?)

 ローリエ(目を覚ましたら、ハバネロ帝国軍の陣地に連れて来られていた。縛られていて、身動き取れない)

 サフラン(すぐ助けに行く!)

 ローリエ(待って。もう少し様子を見よう。どうやら敵さんは、私が術使いと思っているらしい。「コリアンダー大王やガーリック将軍の隣の天幕から、女を2人も侍らせている特別待遇の奴を連れてきた」とか言ってる。笑っちゃうね)

 サフラン(近くには誰がいるの?)

 ローリエ(ペッパー将軍とその部下だね。どうやらこの後、ハバネロ皇帝のいるところに連れて行かれるみたい)


 ローリエと状況を話しながら、私は事の次第をコリアンダー大王とガーリック将軍に報告しに行く。


「なんと! では、敵は我々が今スキルを使えない状態と思い込んでいるのか。好機ではないか」

「早まるな、ガーリック将軍。ローリエが人質になっていることも、また事実だ」

「少人数の精鋭で、強襲しローリエを奪還してきましょう」

「ううむ」


 ローリエ(サフラン!サフラン! 皇帝ハバネロの前まで連れてこられた。こいつ狂ってる! 私のこと処刑するつもりだ!)


「すみません、皆さん。間に合いそうもありません。私一人でローリエを助けに行きます」

「「「え?」」」


 結婚指輪は1回だけ相手の元に瞬間移動できる指輪だ。

 今、それを使わずしていつ使うというのだ。

 私は、指輪にローリエの元へ移動するように念じた。

 私の眼前からコリアンダー大王、ガーリック将軍、そしてローズマリー先生の姿が消えた。


 *****


「しかし殺してしまっては人質としての利用価値がなくなるのでは?」

「構わん。身動きできなくなる奇怪なスキルは脅威だ。殺して憂いを無くしてしまえ」

「む? 誰だお前は!」


 今、私の目の前には、縄で縛られて跪かされているローリエ、その横に立つペッパー将軍、そして玉座でふんぞりかえっている偉そうな男がいる。こいつが皇帝ハバネロか。

 縄で縛られ、跪かされているローリエの姿を見て、私の頭は沸騰した。


「この!」

「ギャッ」


 錫杖を思いっきり横に振り回し、ペッパー将軍をぶん殴る。

 ベコッと嫌な感触を感じつつ、くの字になったペッパー将軍が天幕の壁に吹っ飛ぶ。


「ローリエを……返せ!」


 玉座に詰め寄り、ハバネロに渾身の突きを打ち込んだ。

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