第52話 マッサマンの戦い

 ハバネロ帝国軍の陣から大軍がこちらめがけて、打って出てきた。


「む。これはまずい。応戦準備!」


 コリアンダー大王がそう叫ぶが、私は『不動緊縛ふどうきんばく』を念じ、錫杖をシャラン!と鳴らした。

 打って出てきたハバネロ帝国軍が一瞬で凍り付く。皆動けなくなった。


「でかした!サフラン。よし、掃討だ!かかれ!」


 コリアンダー大王が王国軍に指示を出す。


 しかし、王国軍が、動けなくなった帝国軍を殲滅せんめつしようと近づいたところで、ハバネロ帝国軍の後方から大量の火の玉が飛んでいた。

不動緊縛ふどうきんばく』で動けなくなっても、口を動かすことはできる。

 後衛の魔導師部隊が一斉にこちらへ魔法攻撃を仕掛けてきたのだろう。


「いかん! 防御態勢をとれ!」


 私は、自分を含めた王国軍の陣地全体に『治癒ヒール』を繰り返し念じた。

 帝国軍からの火の玉が雨あられのように着弾する。

 王国軍は一瞬、火傷やけどを負うものの、直後には『治癒ヒール』により回復していた。

 しかし、休みなく飛んでくる火の玉に進軍どころではない。


「引け引け!」


 王国軍は自陣まで引く。

 王国軍が自陣まで戻り終えた後、私はマッサマン平原の只中にいる身動きできなくなっていた帝国軍に対して『不動緊縛ふどうきんばく』を解除した。


 一騎打ちから戻り終えたガーリック将軍とも合流する。


「ガーリック、よく戻った。明日、仕切り直して再戦するぞ」

「はっ。帝国軍から大量の火の玉が飛んできた時には肝を冷やしましたが、皆よくご無事で」

「うむ、サフランの広範囲な『治癒ヒール』により皆助かった」

「あれほどの規模でスキルが使用できるとは……。明日はサフランを連れて、敵陣に突撃、粉砕しようと思います。誰一人として失わず圧倒できるかと」

「それが良いな。サフラン、頼むぞ」

「は、はい……」


 明日は激しい戦いになりそうだと思いながら、今日は休むことにした。

 私とローリエとローズマリー先生でひとつの天幕をあてがってもらい、ローリエを中心に川の字になって寝入った。


 *****


 その日の夜、ハバネロ帝国軍はハーブス・パイス王国軍に夜襲をしかけてきた。

 私はローズマリー先生に叩き起こされた。


「サフラン! 夜襲です!」

「え?え?」

「ローリエがいません! その辺りで戦っているのかもしれません! 見つけ次第、合流しましょう。3人で固まっていたほうが安全です!」

「わかりました!」


 私とローズマリー先生は天幕から出て、辺りにローリエがいないか探す。

 負傷した兵士がいるのを見て、私は陣地全体に『治癒ヒール』をかけた。

 既に息絶えてしまった人には間に合わないだろうけれど、少しでも息が残っていれば回復できるはずだ。


 夜が明ける頃、既に帝国軍は退却しており、王国軍は鎮火に尽力していた。


「ローリエがいない……」

「もしかして、帝国軍に連れ去られたのではないでしょうか?」

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