第40話 スターアニス

 私がパセリたちに声をかけると、二つ返事で快諾してくれた。

 こうしてスターアニス王女の護衛は、私、ローリエ、ローズマリー先生、パセリ、ジンジャー、マスタードの6人で行くことになった。


 その日は王都への旅の準備を行い、次の日の早朝にスターアニス王女のいる隣町に向けて出発した。


「徒歩だとどれぐらいの時間がかかるかな?」

「馬車でゆっくり移動して約半日だったから、徒歩だと丸一日ぐらいだね。今日の夜には着くんじゃないかな」


 途中、昼休憩も挟んで、日が暮れそうな頃に隣町に着いた。

 待ち合わせ場所となっている隣町の高級宿に着く。絢爛豪華な店構えだ。


「うわ〜、これは高そうだ」


 宿の応接間に通されると、エメラルドグリーンのワンピースを着たスターアニス王女がいた。ローリエとはまた違う魅力が溢れている。美しさと可愛さと凛々しさを足して1で割ったような雰囲気だ。


 ローズマリー先生がするように、私もひざまずいて礼をした。


「ちょっと皆さん、辞めてください」


 スターアニス王女が駆け寄ってきて、私の手を取る。


「サフランさん、私がここにいるのは公式な訪問ではありません。もっとフランクにお願いできませんか」


 私が戸惑ってまごまごしていると、ローリエが助け舟をだしてくれた。


「しかし王女殿下を前にして、フランクにと言われてもちょっと無理があるといいますか……」

「ここでは殿下ではなくスターアニスと呼んでください。親が少しお金持ちの世間知らずが、皆さんと一緒に王都に遊びに行くぐらいの気持ちでお願いします」

「「「そんな無茶な」」」


 パセリとジンジャーとマスタードの言葉が見事にハモったのがおかしくて、みんなクスクス、アハハと笑い出した。

 たしかに年齢は私と同じぐらいだし、王女様がそれで良いならね。

 私は少しおどけて言った。


「わかりました、スターアニス。では、ここにいる6人があなたと一緒に王都に遊びに行く仲間です」

「心強いわ。みなさん、よろしくね」


 パセリたちの自己紹介も行い、今後の計画に関する話に移る。


「今日はみんなこの宿に泊まるといいわ。費用は私がもつから。明日の朝、出発しましょう」

「それはさすがに悪いですよ。自分たちで近くの宿に泊まりますので……」

「護衛も兼ねているのでしょう。ここはお言葉に甘えましょう」


 スターアニス王女の太っ腹な発言に遠慮を申し出たが、ローズマリー先生が王女の意図を汲んで教えてくれた。

 パセリたちは高級宿に一人一部屋で泊まれると喜んでいる。


「では、明日の朝、食堂でお会いしましょう」


 応接間を出て、各自の部屋に入る。

 湯浴みをして寝る準備をしていると、ローリエが部屋に尋ねてきた。


「ねえ、サフラン。一緒に寝てもいい? 落ち着かなくて」

「いいわよ。一緒に寝よ!」

「せっかくこんなに豪華な部屋を独り占めできるチャンスなのにごめんね」

「気にしないで。一人で寝るには部屋もベッドも広すぎるわ」


 昨日までは安宿のセミダブルのベッドに2人で寝ていたのに、急にキングサイズのベッドで1人で寝ろと言われても、広すぎて落ち着かない。


 私とローリエはひとつのベッドに横になった。

 どちらともなく手を繋ぐ。

 それでもやっぱりベッドが広いせいか距離が遠い。

 ローリエも同じことを考えていたようだ。


「ねえ、もうちょっとくっついていい?」

「いいよ」


 広いベッドの中で、ローリエと抱き合う。

 ローリエの甘い匂いに包まれて、私はそのまま寝入ってしまった。

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