第29話 カルダモン伯爵
カルダモン伯爵邸に着いた私たちは、門番の人にフェンネルさんに言われて訪問したことを伝えた。
門を通され、広いお庭で待っていると、屋敷のほうから30代ぐらいの男性がでてきた。
「あれ?あの人って?」
昨日、お立ち台の上から、みんなを鼓舞したり、指揮を取っていた人だ。あの人がカルダモン伯爵だったのか。伯爵というぐらいだから、もっと髭の生えたおじいさんだと思っていた。
「やあ、サフランとローリエだね。よく来てくれた。こっちで一緒にお茶しよう」
そう言って、お庭の一角にある東屋に案内された。テーブルと椅子がおいてある。
席に着くと、メイドさんがキッチンワゴンに乗せて、お茶とケーキスタンドを持ってきた。
ケーキスタンドを置き、
「さあさあ、遠慮なくどうぞ」
カルダモン伯爵は朗らかに勧めてくれる。昨日の騎士や冒険者たちの前に立っていた時とは別人のようだ。
お茶を一口のみ、ケーキスタンドのお菓子に手を伸ばして、口に運んだ。
こんなおもてなしをしてくれるなんて、投獄されるだの処刑されるだのは杞憂だったかな。
少し雰囲気が和んだところで、カルダモン伯爵が口を開いた。
「ここに来てもらったのは他でもない。魔物を身動きできなくするスキルについてなんだが……」
ブホ! 口にいれたお菓子を喉に詰まらせて、吹き出しそうになった。
「君たちが持っているスキルではそのようなことをできないのは、ギルドからの報告で知っているよ」
あれ?別に疑われているわけではないのかな。
そこでカルダモン伯爵は、筒状の物を取り出した。
「これは『遠見筒』といって、遠くのものを見る道具なんだがね。ちょっと見てみるかい?」
そう言って、それを私に渡してきた。私は筒の中を通して、遠くを見る。ああ、これは望遠鏡だ。
「私は城門の上から、戦況を見ていたんだが、丘の上にとびきりの美少女を見つけてしまってね。そう、君だよ、サフラン」
望遠鏡をローリエに渡しながら聞いていて、私は固まってしまった。とびきりの美少女なんて言われると気恥ずかしい。たぶん顔が赤くなっているだろう。
「戦況を見るのも忘れて、その遠見筒でずっと君を見てしまっていたんだよ」
うわー、ずっと見られていたなんて……。
というか、あの状況で何やってんだよ。
心なしかローリエがカルダモン伯爵を睨んでいるように思えるんだけど。やきもち焼いてくれている?
「そうしたら、丘の上から下を見下ろして、何か決心したように、その武器を振り回していたよね」
カルダモン伯爵が東屋の柱に立て掛けた錫杖を指差す。
「どうしたんだろうと思って、遠見筒から目を外してみると、いつのまにか城が魔物に取り囲まれていて、しかも身動きがとれなくなっている」
そこでカルダモン伯爵は一口お茶を口にした。
「焦ったね。ちょっと目を離している隙に城が魔物に取り囲まれていたなんて」
(それは、ちょっとの隙ではないでしょう)
「でも魔物たちが身動き取れなくなっていたのは幸いだった。それのおかげで僕たちは勝利できたんだからね」
どこか遠くを見るように話していたカルダモン伯爵が私の方を向いた。
「みんなはどうして魔物たちが動かなくなったのか不思議に思っているんだけど、僕は君が何かしてくれたんじゃないかと思っているんだ。サフラン」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます