第16話 漢気

 私たちはギルドに帰ってゴブリンの討伐報酬を精算した。


「やっぱり薬草採取よりも魔物討伐のほうが儲かるね」

「たまには宿の食堂じゃなくて、他のお店で食事してみる?」


 ローリエの提案で、ぷらぷらと町を歩く。

 私は、目に入ったお店を指差した。


「へー。『レイピア焼き』が名物のお店だって。どうかな?」

「面白そうだね。入ってみようよ」


 私が見つけたお店は『レイピア焼き』を看板メニューにしているお店だった。『レイピア焼き』とは、バーベキューで食べるような串焼きの串に、レイピアという細身の片手剣が使用されている料理で、1本もあれば十分に満腹になりそうなボリュームだ。


 スープ、パン、レイピア焼きを注文して、私たちは果実酒で乾杯した。


「今日も無事に帰ってこられたことに乾杯」

「あはは、そうだね。私ひとりだったら、食事もとれずに野宿していたかもしれない。サフランと出会えて良かったよ」

「それは私も同じよ。ローリエと出会えていなかったら、街の外で野垂れ死んでいたかもしれないわ」


 しばらく経つと、レイピア焼きも美味しく、良い感じにほろ酔いになっていた。

 そんな時に突如、邪魔が入った。


「ちょいとお嬢ちゃんや、一緒に飲まねえか?」


 4人座れる丸テーブルにローリエと2人で座っていたが、割り込むように1人の男が座ってきた。明らかに紳士的なものではなく、絵に描いたような粗暴な奴だった。


「すみません。2人で楽しんでいますので……」

「まあまあ、そう言わずに良いじゃないか」


 男が顔をグイッと近づけてくる。反射的に体を引いてしまう。


「ちょっと止めてもらえますか!」


 そこにローリエが立ち上がり、私と男の間に割って入った。


「ああ!? 若造が俺に楯突こうってのか!?」

「サフランには指一本ださせない!」

「おもしれえ! 表に出ろや!」


 店内の注目を一点に浴びる中、私はローリエにヒソヒソと話しかける。


「危ないよ。逃げちゃおうよ」

「あんな奴を野放しにしていたら、サフランがいつ襲われるかわかんないよ。懲らしめないと」

「でもあいつ強いかもよ? 私たちまだD級なんだよ」

「大丈夫だよ。負けはしないから」


 端からみれば、漢気溢れる振る舞いなんだろうけど、普段のローリエを思うと、たぶん酔って気が大きくなっているのだろう。


 店の外に出た男とローリエが対峙する。

 私は店の前に立って見守っている。

 野次馬たちが店の窓から顔を出している。


 男の武器は大刀だ。幅が広くて、日本刀というより中国武術で使われるような刀だ。

 ローリエはいつものショートソード。リーチでは圧倒的に不利だ。


「いくぜ」

「こい!」


 男がローリエに斬りかかった。

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