第46話 コリアンダー大王

「そちがサフランと申す女子おなごだな?」


 私は戸惑いながらも、何とか返事だけはした。


「は、はい……」

「何度となく私の娘を助けてくれたそうだな。ありがとう」

「い、いえ! とんでもないです!」

「ところでカルダモン伯爵から紹介状を渡されているのではないかな」

「あ、こちらです」


 私はあわてて紹介状を取り出した。近くにいた大臣が受け取り、大王の元に持っていく。

 カルダモン伯爵の紹介状を読んだコリアンダー大王は満足そうに頷いた。


「うむうむ。……ほう、その錫杖は他の者には持てぬと申すのか」

「はい」

「面白い。ガーリック将軍よ、持ってみぬか?」


 コリアンダー大王が声をかけたのは、筋肉ムキムキの見るからに屈強な雰囲気の将軍だった。


「はい。お許しいただけるのであれば、ぜひにも」

「うむ。サフランよ、ちょっとその錫杖を借りるぞ。ガーリック将軍、その錫杖とやらを持ってみせよ」

「ハッ。……ちょっと貸して頂くぞ」


 私はガーリック将軍と呼ばれた人に錫杖を差し出す。

 ガーリック将軍は錫杖を掴み、持とうとするがびくともしない。


「む。うんむ、これはいったい……」

「ほほう。カルダモン伯爵の言うとおりだな。他の者には持てぬのか。ガーリック将軍、もう良いぞ。ご苦労であった」

「ハハッ」


 そう言って、ガーリック将軍は元の位置に戻った。


「サフランよ、カルダモン伯爵から聞いているとは思うが、我が国は近いうちにハバネロ帝国といくさを始める。そのほうの力を貸してほしい」

「はい。あ、あの……どうしていくさをすることになったのでしょうか?」

「うむ。それを説明するためにはハバネロ帝国がどのような国かを説明せねばなるまいな。ナツメグ、そなたに説明を任せても良いか?」


 ナツメグ? ナツメグさんと同じ名前?

 コリアンダー大王が声をかけると、大臣や将軍らと同じ列に立っていたフードをかぶった人が、そのフードを脱いだ。


「かしこまりました。……お久しぶりです。サフランさん」

「えええー!」


 思わず場所もわきまえずに素っ頓狂な声を出してしまった。

 だって、そこにいたのは商人であるはずのナツメグさんだったのだ。

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