第4話 ローリエ
冒険者ギルドを後にして、受付嬢から教えてもらった宿に向かった。安くて親切な宿らしい。
「いらっしゃい! 2名ね。お部屋は2部屋? 1部屋?」
宿のおかみさんに言われてハッとした。そういえば宿に泊まるお金を持っていない……。
「そういえば、私、宿代を持っていないかも」
「え?そうなの?それじゃ一緒の部屋にする?」
「いいの?ありがとう。一緒に泊まらせて」
「はいよ! 1部屋ね。はい、これが鍵ね。ごゆっくり♪」
男同士だし同じ部屋でも構わないだろうと軽く考えて甘えてしまったけれど、鍵を渡すときに見せたおかみさんのニンマリした顔で思い出した。私は女だった!
ローリエも何の躊躇もなく気軽に誘ってきたけど、どういうつもりなんだろう。文化的な違い? こちらの世界では年頃の男女が一緒に泊まるなんてよくあることなんだろうか? それとも最初から夜這う気まんまん? そんな肉食系には見えないけど、宿代の対価を体で払ってほしい何て言われたらどうしよう。まさか童貞を失う前に処女を失うことになるとは。いや、そもそも肉体的に、サフランという子は既に経験済みなのかだろうか。
そのようなことを悶々と考えながら部屋に入った。ローリエは装備を外しだす。「え?そんないきなり?」と思いながらローリエを見る。美少年だとは思っていたけど、結っていた髪をほどけば長くきれいなブロンズヘアだし、なんとなく体つきも女の子っぽい。
……などと思っていたら、ローリエの口から衝撃的な発言があった。
「サフラン、実はね。私、女なのよ。だから安心して。襲ったりしないから」
(えええー!?)
思わず言葉を失ってしまった。そうか、ローリエは女同士だと思っていたから気軽に同室を提案してきていたんだ。しかし、そうなると今度は別の意味でドギマギしてきた。こっちの中身は男なのに、女の子と同じ部屋だって!?
「え、えーと……。うん、わかった。でもなんで男のフリをしているの?」
「15歳で女の冒険者なんて舐められそうじゃない? だから男のフリしてれば少しはマシかなって」
そっか、なるほど。たしかにそうかもしれない。
「サフランは同い年の女の子だし、本当のことを話しても良いかなって」
「そっか。ありがとう。話してくれて」
「サフランはどうしてその
「え、えっとね……。信じてくれるかどうかわからないけど、本当は別の世界に住んでいて、気を失って、目を覚ましたらこの世界に居たんだよ。それで街が見えたから城門に近づいたところでローリエに声をかけられたわけ」
「ええ!? 本当に? じゃあ冒険者証は?」
「目を覚ましたら持っていたんだよ。そもそも前の世界ではサフランっていう名前じゃなかったし」
「そっかぁ。そんなことがあるんだ……」
「信じてくれるの? こんな話」
「うーん。たしかに突拍子もない話だけど、サフランが嘘をついているようにはみえないしね」
「ありがとう。ローリエはなんで冒険者になったの?」
「私はね。お母さんが病気で亡くなって、お父さんが再婚したんだけど、新しいお母さんが私のことを邪魔者扱いしてね……」
ローリエの声がだんだん落ち込んでいく。
「15歳になって成人したら、家を出ていこうと思ってたんだ。それで、冒険者登録して村を出てきたの……」
「冒険者になることはお父さんには話したの?」
首を横に振るローリエ。おそらくあの装備はローリエの父親のもので、黙って持ってきたんだろう。
私は、ついさっきまでのドギマギしていた気持ちはなくなっていた。この子のために何かしてあげたい。助けてあげたいという愛おしさでいっぱいになった。
気づいた時には、この少女を抱きしめていた。
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