第2回【なぜ保守・右派を名乗る者の中に信用無い者が少なからず混じり込んでいるのか】

 令和4年(2022年)7月8日に起こった大事件とは、むろん安倍晋三元首相が奈良で暗殺された事件である。参院選の選挙活動中に起こった大事件、その〝悲劇的な死〟に当初は非常に同情が集まり岸田首相も早々に「国葬を行う」と決めてしまったくらいである。


 だが現場で取り押さえられた犯人が旧統一教会の被害者家族であり、古くから旧統一教会と結びついてきた自民党を憎み、そして「自民党の看板とも言える人物を撃たねば」、と思い詰めさせるところまで追い込まれていた事が明らかになり始めるや、にわかに風の向きが変わってきた。

 それが如実に表れていたのが岸田内閣の支持率である。60パーセントくらいあったものがグングングンと急激に下がり始める。


 通常運転の自民党なら「岸田はダメだ。首相を代えないと」となるところだが、岸田首相は旧統一教会とは接点が無かった。あったのは自民党の約半数の議員達。岸田首相はむしろこの連中に足を引っ張られているとしか言いようがなく、首相の首をすげ替えれば状況をリセットできるという状態ではない。正に自民党結党以来の危機である。


 ではなぜ結党以来の危機と言えるのか?

 与党自民党と旧統一教会との繋がりの何が問題か?

 それは旧統一教会というのが、であり、という点にこそ、ある。


 これにつき、NHKが実に素晴らしい仕事をしている。かつて朝日新聞などが「NHKは政権与党の顔色をうかがいながら番組を作っている」などとネガティブキャンペーンしていた事があったが、そんな事は無い。

 2022年10月2日(日曜日)放送のNHKスペシャル『安倍元首相銃撃事件と旧統一教会 〜深層と波紋を追う〜』は、この番組ひとつで〝二ヶ月分の受信料にも相当する〟とさえ言える衝撃的なものだった。それくらい、まったく政権与党の自民党に配慮していない。個人的には明日から月曜という日曜夜9時に、よくぞこの番組を見たと、そう思う。


 同番組は旧統一教会の開祖『文鮮明』のことばを『文鮮明先生御言葉選集』なる本より引用、

>「日本は帝国主義時代に韓国から占領したものをすべて返して罪を償うべきだ」

 という発言を全国放送で紹介した。


 これは極めて重要な〝御言葉〟と言える。なぜなら『』である事が、この〝御言葉〟で明らかになっているからである。本エッセイの第1回の最後の部分に書いた『』とはこの事を指す。


 続けて同番組は統一教会の韓国本部に所属していた関係者(むろん韓国人)のインタビューを紹介する。

 彼曰く、

>「献金額が多ければ多いほどは早く清算してもらえます。子孫は祝福を受け自分の問題は解決されるのです」


 この証言もまた前者に負けず劣らず非常に重要である。なぜなら〝旧統一教会による〟という事を明らかにするものだからである。

 『先祖の罪』なるものが「韓国人自身やアメリカ人にある」などと、韓国人が考える筈も無い。『先祖の罪』とやらが日本人にしかないとする以上は、畢竟(ひっきょう)被害者も自ずと日本人に限定されるのもまた道理である。


 むろん民放の中にもゆうはいる。日本テレビ系列で放送されている『ミヤネ屋』という情報番組もここに紹介したNHKスペシャル以前から、同様の指摘をしている事は忘れてはならないだろう。先駆けと言える。


 種々の情報を総合すると旧統一教会は、韓国では様々な事業を展開している小財閥だと思われ、アメリカでは多額の献金を行うロビー団体だと思われ、そしてここ日本ではカルト宗教だと思われている。或る意味、韓国人にもガラクタ同然の『壺』を日本並みに売っていてくれたら、話しは極々単純に済んでいた。

 かの思想漫画家小林よしのり氏は、旧統一教会を『』だと断言してさえいる。そしてこれは間違いなく当たっている。

 なにせ教祖が「」と言っているのだから。



 そこで自民党である。衆参合わせ全自民党国会議員381人(2022年7月26日時点の数)のおよそ半数180人が旧統一教会との接点を持っていた。自民党の中のあらゆる派閥にそうした議員がいたわけだが、特に保守系派閥(つまり安倍派)といわれる派閥の中における数が抜きん出て多かった。

 その自民党保守系派閥の議員達はこれまで何を言ってきたか?


 『憲法9条を改正し自衛隊を正式な軍隊とする』


 『首相は靖國参拝をすべきだ』


 『誇りある日本を蘇らせ日本人の愛国心を取り戻す』


 とかなんとか、概ねこのような事を言っていた筈である。このような価値観を本当に持っていたなら『日本は帝国主義時代に韓国から占領したものをすべて返して罪を償うべきだ』と抜かしている団体などと癒着できる訳がない。


 しかし現実は癒着していた。『いかにも保守っぽい主張』、『いかにも右派っぽい主張』を彼らは選挙のたびに訴えていたわけだが、それらは選挙において当選するための方便に過ぎず、当選するために保守を自称し、有権者を騙し欺いていたとしか言いようがない。

 また、『いかにも保守っぽい主張』、『いかにも右派っぽい主張』をしているのは自民党だけではなく、今年(2022年)の参院選で躍進を果たした参政党という政党もそうである。この党にも旧統一教会との接点がある者がいるという指摘(https://www.worldofgosen.com/2022/11/02/参政党福岡県支部長-新開裕司が演説動画/参照)が出ていて、もはや保守・右派陣営は、偽装保守・偽装右派ではないかとどこもかしこも疑われ、正に総崩れの感を呈している。


 近ごろ『被害回復』の名の下に、旧統一教会問題を〝純粋な金銭の問題〟にすり替えようとする空気が与野党問わず政治の世界にある。これは明らかにおかしな方向性だ。

 これはTBSの報道番組(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/134941?display=1参照)が指摘していたが、旧統一教会の勧めるままに韓国人男性と結婚した日本人女性のその後の人権問題だってある筈だろう。

 旧統一教会の問題は事が明るみに出た事件である。話しを補償だのなんだのといった金銭問題に限定させようとする全ての輩は、ここから衆目の目を逸らさせようとしているとしか、もはや受け取れない。再発防止策を考え手を打ってこその真の対策というものだろう。


 自民党はいよいよ追い詰められたのか開き直り始めている。

 『旧統一教会の求める政策が政治に反映された事は無い!』と。

 だが本当にそう言えるのか?


 とは言えそれを指摘し始めると本エッセイの主題からは外れていく。なのでそこは『真の・リベラル  誠の・リベラル』本編で触れていくしかない。




 また、今ひとつ指摘しておきたい。


 『保守・右派を名乗る者』はなにも政治家限定ではない。その支持者達だってそうだ。彼らにも問題がある。未だ安倍晋三という政治家を無条件に支持し続けている者がいるのは非常に奇異だ。『保守』とはいつから安倍晋三という人間を保守する事を意味するようになったのか。


 保守・右派を名乗る者達はかつて民主党に向かってこんな事を言ってはいなかったか。

「あいつらは外国人から献金を貰っているぞ! 売国奴だ!」的な事を。

 たいへん残念な事だが、と敢えて断りを入れて言うが、安倍晋三という政治家も反日勢力と結託していたのは紛れもない事実だろう。


 しかしそれでも彼らは安倍晋三という政治家を支持し続ける。彼らは支持を続ける理由を専ら〝外交〟に求めているようだが、安倍外交が成功をみたのは単なる偶然である。

 中華人民共和国国家主席・習近平を国賓で日本に招こうとし、ロシア連邦大統領プーチンとは歯舞・色丹の二島返還のみで日ロ平和条約を締結しようとしていたのは安倍晋三だ。

 前者は2020年4月頃に計画されていたようだがこの時期はコロナ禍のまっただ中で、そのせいで国賓訪日はお流れとなってしまった。後者の方は「一度手に入れた土地は寸土でも手放したくない」という強欲さをプーチンが持っていたため、これもお流れとなった。

 前者が実現していたら天皇訪中への流れは決定的となり、今ごろ日米関係がどうなっていた事か知れたものではない。また後者が実現していたら「国後・択捉を放棄した売国奴」という評価になっていただろう。これらは安倍晋三の意志とは無関係に、偶然外交危機は回避された。まあ、〝政治は結果〟というから、偶然だろうとなんだろうと〝やらかさなかった〟のは事実で「外交の安倍だった」という評価は間違いではないが。


 ただ、首相になってからは今ひとつ精彩を欠いた感のある安倍晋三だが、官房副長官時代の2002年秋の安倍晋三には〝寄らば斬る〟的な凄みがあった。

 2002年10月、北朝鮮による拉致被害者のうち5人が何十年ぶりかに日本へ帰国した。

 だがしかし——

「今回の拉致被害者の帰国は一時帰国に過ぎず拉致被害者は北朝鮮に戻るべき」という、どこから出たのか分からない暗黙の空気が政界・メディア界を支配していた。そんな中、「拉致被害者は北朝鮮には返さずこのまま日本に留まってもらう」という論陣を公然と舌鋒鋭く展開し、僅か一人でその空気を蹴散らしてみせたのは紛れもなく安倍晋三だった。

 どこのテレビ局かは忘れたが、キャスターが「このまま拉致被害者が帰らないと心配するんじゃないですか?」と安倍晋三官房副長官に訊いた。安倍晋三はすかさず切り返した。

「誰が心配するんですか?」と。

 キャスターはどう返していいか分からずその場で立ち往生。安倍晋三も武士の情けか、そのキャスターに執拗に回答を迫るような事はしなかった。

 あの様は見ていて実に痛快だった。北朝鮮の代弁者にしか見えない者が蹴散らされたのだから。後にも先にも政治家の事をカッコイイと思ったのはこの2002年秋の安倍晋三だけだ。

(なるほど、言っていて自分でも〝やましい〟と自覚している者は、主語をぼやかすのか)と学習したものだった。

 元より全ての報道系番組をチェックできる筈もなく、当時のその活躍の全てを目撃したわけではないが、きっと他局でも安倍晋三は無双状態だった事だろう。



 だがあれから20年、今ごろ(2022年9月)になって、当時官房長官だった福田康夫が共同通信の取材に対し、おかしな事を言い始めた。

>「一時帰国の是非で政権内の意見が割れたと報じられたが、5人を北朝鮮に戻すなと私に訴えた官邸幹部は、安倍氏も含め、誰もいなかった」

 ——と。

 誰が一番最初に言ったか『死人に口無し』とはよく言ったものである。それが本当ならなぜ安倍晋三が生きているうちに言わなかったのだろう。


 また同記事にはこうもある。

>福田氏は、5人を日本にとどめるべきだとする一部の世論に違和感を覚えたと指摘。「家族を北朝鮮に残した5人の意向を考えず、一時的な思いに任せて日本に縛り付けるなど人道的にあり得ない」と語った。


 それ以前に日本人拉致が人道的にあり得ないわけだが。むしろ福田康夫という男に違和感を覚える。「あなたとは違うんです」がこの男の名言(迷言)だが、お前などと同じにされちゃあ、こっちがたまらん。


 さらに共同通信の記事にはこうもある。

>5人の永住を決定した経過については、外務省アジア大洋州局参事官だった斎木昭降元外務事務次官も17日までのインタビューで、当時の中山恭子内閣官房参与に5人の永住意志を伝えた蓮池さんの電話が決め手になったと証言。「政治家でも官僚でもなく、蓮池さんたちの決断だった」と明かしている。



 これを読んだ感想はこうなるしかない。

『自民党政権ってのは非道い政権だな。何十年ぶりにか日本に帰る事のできた拉致被害者を日本に留めようとした者は、誰一人いなかったんだ』と。

 やはり『最も恐ろしい敵は無能な味方』という格言は当たっている。自民党政権で首相まで勤めた人間(福田康夫)が自民党ネガティブキャンペーンを始めるのだからな。

 またあるいはこういう感想も成り立つだろう。

『へー、日本の外交は蓮池って人がやったんだ』と。むろんこちらは皮肉である。


 どうして日本の政治家や官僚は「蓮池さんたちの意向を受け」と言えないのか。見えてくるのは究極の無責任体質と北朝鮮に対する異様な配慮だけだ。コイツらの価値観が20年後の現代の政治家と官僚にも受け継がれているのなら韓国に対する異様な配慮があっても不思議は無い。


 コイツらに比べたら当時の安倍晋三官房副長官がどれほどの凄みを持っていた事か。

 北朝鮮に対する配慮が全く無かった当時の安倍晋三。首相への足がかりを得るのと同時にこれ以降リベラル・左派メディアからの異様な憎しみを一身に受けることになる。


 さて、

〔『保守・右派を名乗る者』はなにも政治家限定ではない。その支持者達だってそうだ。〕から始まるこの〝安倍晋三パート〟は、そんじょそこいらの『反アベ勢力』と一緒にされたらたまらない、という動機で書いた。次回はマスコミについて、だ。(第3回へ続く)

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