第03話.プロローグ③【萌々華SIDE】

 私は、久保くぼ 萌々華ももかよ。交際を始めたのは、ゆずくんの押しの強さに負けてから。でも人柄に触れて、惹かれてひかれて行ったの。


 柚人くんの愛が、とても心地良くて。訳有って3回目は心桃湖しんとうこ、早朝デートに付き合って欲しいって柚人くんにお願いしたの。






 愛の試練まで、後2時間。



 もし柚人くんが、約束通り早朝に来てくれたなら……。信じてもう一度、手鏡を覗いてのぞいてお化粧チェック。女の嗜みたしなみよね。


 ゆっくりと手鏡から顔を上げた時、私の顔からにっこり笑みが溢れたあふれたの。来てくれたのね、柚人くん。こっちよ、こっち!






 愛の試練まで、後80分。



 わぁ、此処は恋のパワースポットだって前以てまえもってSNSで見て知ってたけど。実際、こんなにも観光客で一杯になってたなんて!


 でも、どうしても柚人くんと2人きりになりたくて。勇気出して、心桃湖が見渡せる……少しだけ小高い丘へ連れて行ったの。






 愛の試練まで、後40分。



 私、密かに決めてたの。今日の早朝デート、もし私を信じて柚人くんが応じてくれたなら。奇跡の光景をバックに、私は……



 遠慮がちに私の時だけ、手のひらで触れてから抱き締めてくれる柚人くんのくせ、愛の再確認。恋人の私しか知らないのよね。


 徐々にピンク色へ染まって行く、ハート型の湖を背にして。柚人くんと愛を交わして、2人で未来を……夢を、誓い合って。



 ん、チュッ。



 私のファーストキス……柚人くんにあげちゃったの。唇を くちびる 通して柚人くんの体温が、心臓のドキドキが伝わって来たわ。






 愛の試練まで、後10分。



 抱き締める柚人くんの肩越しに、後ろの光景が見えてしまったの。将棋倒ししょうぎたおしが大波の様に、押し寄せて来てるわ!


 急いで2人、駆け出したの。繋ぐ手と手は、固い決意に満ちてて。例えどんな困難が待ち受けて居ようとも、決して放さないわ!






 愛の試練まで、後5分。



 でも無情にも、2人は強引に引き裂かれたの。ポインテッドトゥのフラットシューズが脱げ、気が付くと柚人くんの手が……


 私の手が、虚空こくうを掴んで。見物客の流れのうずが2人を、あらぬ方向へ連れ去ってくの。愛も想いも届かない、遠い何処かどこかへ。






 坂道に取り残された私の周りは、5.7m✕3.2mのスペースに300人位の見物客がすし詰め状態で。将棋倒しの波がこちらにも……立ったまま胸が痛くなって。


 何コレ……息が出来ない……柚人くんと一緒の未来が……暗く…… こうして私は外傷性窒息に がいしょうせいちっそく より、立ったまま圧死してしまったの。



 でもこれからが愛の試練の始まり、とは知らずに。

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