秋の退屈

青空一星

暇潰し

 昼、日でも浴びてぼーっとしたいと思って縁側に出た。木目のそこまで入ってない、真っ直ぐな線ばかり入った板に腰を降ろす。それで空を見上げた。

するとどうだ、でっかい雲が揚がってるじゃないか。田舎なもんだから高い家もそう無く、いっぱいに見える空を8割ばかし占めている。そりゃあでっかい雲があったんだ。一目見てわかったね。ありゃ鮭だと。


 直に見たことはないが、あの嘴みたいにトンガッた口先にすらぁーっと伸びた腹。間違いない、テレビとかでもよく見るやつだ。昼飯に鮭フレークを食ったから、それが化けて出たかと少し考えて、それなら面白いやと笑った。


 そんでまたぼーっとしてると、「やい」と声がする。今家には俺しかいないはず、さてはオカルトの類かと身を強張らせた。昼間っから仕掛けるとはおかしな奴だ、どれ顔でも見てやろうと辺りを見回すが人らしい姿は見えない。


 俺があんまり驚かなかったから帰ってしまったかと座り直すと、また「やい」と声がする。声がどこからするのか検討もつかないから「なんだ」と返してやった。すると「返事するんなら目ぇ見てせんかい!」と横っ腹の辺りをつつかれた。そっちの方へ視線を向けて目を疑ったよ。足の生えた鮭がいた。

「なんじゃあ!?」と飛び退くと、そいつはにやにやしながらこっちを見ている。もっとも、俺がそう感じただけで瞬きすらしていなかったが。


 鮭の奴は自分が目を合わせて話せと言ったからか、体を横向きにして話しかけている。


「正面を向けて話しをしないとは失礼なんじゃない?」


とこちらもにやにやすると、鮭の奴は口をつぐんでしまった。それが面白くて


「やい鮭之助返事してみい」


と嘲った。すると、エラを出しながらも両足をこちらに向けて、目もこちらに合わせたまま


「返事ぐらい幾らでもできるわバカめ」


と苛立ちながらも返事してきた。その姿があんまりにも滑稽だから、また笑ってやると元の姿勢に戻って


「せっかく話しをしに来てやったというのにその態度はなんだ、バカバカしい。ワシはもう帰る」


そう言ってそっぽを向いてしまった。


「なんでわざわざ話しなんぞをしに来なさったんだ?」 


と話を要求してやった。


「そんなもの偶々お前と目があって、暇そうにしとったから以外にないわ」 


フンと鼻を鳴らし、とてとてと歩きだした。


「おいおい待っておくれよ」


とこちらも後を追う。縁側はそこまで長いものでもないから、鮭の奴はすぐに走り終えて、庭の地面に足をつける間際にはフッと消えてしまった。


 そんなものを見てぽけーっと眺めているとメールの受信音が鳴った。特に興味も無い内容だったから放っておいた。


 なんで鮭が?空を見上げると、あのでっかい鮭は散り散りになって別々の雲へ形を変えていた。そのうちの一つが妙に栗に見えた。そのとき「やい」と

声が聞こえた。


 あぁ、退屈だ

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