第3話 

 連合国ウェスタリア、数多の国と部族が集まり協力関係を築くことによって生まれた国であり、中央都市ウェスには、学院があり種族問わず多くの生徒が通っていた。

 そこに通っている一人の青年は、学院の長期休暇ということで実家である辺境都市モラクスに帰省しているところだった──。




「おかえりなさいませ。イクス様」

「あぁ、ただいま戻った」


 久しぶりの実家に懐かしさを感じる。初めての長期休暇だ、どのように時間を作ろうか。少し浮足立った気持ちで門を越えると使用人と両親が屋敷の前で出迎えてくれた。


「無事に戻って何よりだ。して、学院の方はどうであった?」

「はい、ただいま戻りました父上。学院はまぁ・・・良くも悪くも普通でした。」


 悪くはなかった、友人と呼べる者ができ見識も広がった気がする。しかし、少しだけ物足りなさを感じてしまったのもまた事実であった。


「くくっそうかそうか、食事はもう用意してある。今後の話も踏まえてそれらも聞いこう」

「?はい、先に荷物を置いてきますので。直ぐ支度してきます」

「あぁ、先に食べて待っておるよ」


 今後の話?自分が学院に行っている間に辺境領で何かあったみたいだ。でなければ今後の予定など勝手に組まれるわけがない。

 使用人と共に急いで荷物を運び出し、軽く着替えを済ませた後屋敷の食堂に向かう。


「父上お待たせしました。それで今後の予定とは?なにかこの地に起きたのでしょうか?」

「そう急かさなくても順に話す。起きた・・というよりはやってきたが正しいがな」

「?それは、どういう・・・」


 コンコン、お食事のところ失礼します。と会話を遮られる。如何やら緊急性の高い報告のようだ。


「来たか・・して、どうだった?」

「それが・・、冒険者ギルドを案内した後受付を済ませた後少し問題が発生しまして・・・」

「渋るな結論を言え」

「見失いました・・・」

「なに?シドも居たというのに見失ったというのか!?」

「左様でございます」

「ふむ・・、やはり侮れんな」


 やはり何かあったようだ。父上が何か思考を巡らせ視線をゆっくりこちらに向ける、真剣な表情に対し緊張感が増し生唾を飲む。


「話の続きだが少し前に遠征軍による魔物の間引きをしていたんだが、ベヒモスと遭遇してしまってな」

「なっ!!」


 驚きのあまり立ち上がってしまった。

 ベヒモスといえば陸生の魔物の中で災害級。1頭の討伐に対し熟練兵による二個師団約千人程の戦力が必要とされている。そのベヒモスに対し遭遇戦となるとどれ程の被害を受けたのだろうか、想像するに難しくはなかった。


「被害状況と近隣の村の避難は!?」

「待て待て、話は終わっておらんその件自体はもう片付いてる」


 あまりの衝撃に啞然とした。災害級の魔物の襲来がそんな短時間で終わるはずがない。何らかの要因があったのか?


「うまく撃退できたということでしょうか?」

「いやな・・、一人の少女に助けられたんだ」

「・・・は?少女?」


 ありえない返事が返ってきた。少女に助けられただって?そんな馬鹿な・・冗談を言うならベヒモスとの遭遇の方がまだ信憑性が高いぞ?


「あぁ、報告によると透き通った銀髪で綺麗な顔立ちをした少女だそうだ」

「いや、出で立ちの話ではなく・・」

「突然現れたと思いきや一太刀で首を落としたそうだ」

「そんな馬鹿な!!」


 ベヒモスの首を一太刀だと!?それこそあり得ない!いったい何者なんだその少女は・・・、他国の患者?だとしてもこちらの戦力を生かす意味が分からない。あまりの衝撃に混乱しているとごほんっと父上に意識を戻される。


「それで件の少女だがもし、見かけることがあれば何らかの形でもいいから縁を結べ。最低でも知り合いに、出来うるなら友人になれ。この際口説けるようなら口説いてもらっても構わん。だが決して敵対関係にはなるな。」

「!!承知しました。会うことが叶いましたら出自や所属なども探ってみます」

「ああ、それも頼む」

「では、話しも終わりということで先に休ませていただきます」


 食事はすでに終わっており、席を立ち先ほどの情報を整理しながら部屋をあとに扉に手をかけたところで父上から今後の予定を聞かれた。


「そうですね・・ひと先ずは冒険者ギルドで修行がてら魔物狩りでもしてます。因みにその少女は俺と比べてどうですか?」

「ん?それはどうだろうな・・、いくらベヒモスを狩れるといっても感じはなかったそうだ、技量は確実に娘の方が圧倒的だが総合力となると貴様の方が上の気もする」

「そうですか、ぜひ手合わせ・・もとい剣術の指南を頼みたいな」


 己を越えた強者身近にいると分かり口角が吊り上がる。早く会いたい・・、街から出る場合なら必ず情報が流れてくるはずだ。

 想像が膨らみ口元が緩むのを感じる。改めて帰省してよかったと思い、明日に備えて足早に自室に戻ることにした。






 ──少女が薄暗い路地で膝を抱えて座っていた。その背は、見るからに哀愁が漂っており何事か困っているのが見てわかる。


「どうしよう・・、道がわからない・・・・・」

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