─1章─第1話 誤解

 人気のない荒野にふと空間に亀裂が走り大きな歪みが生まれる。

 次第に歪みが小さくなるころにはそこに入れ替わるように少女が舞い降りた。

 透明感のある白銀の髪を揺らす彼女の名はクトゥラ。強い魂に導かれ虚無となった遠い世界より転移してきた。旅人である。

 何も知らずに生きてきた少女が世界を知るために星を巡ることにした。最初の探索地が以前の過ごしていた星の5倍程大きさを誇るこの地である。彼女が訪れることによって生まれる変化はこの星にとって凶となるか吉となるのか────





「・・・あれ?誰もいない?座標間違えたかな?」


 強い魂を感知し飛んでみた先にあるものは、人気のない広大な大地のみであった。

 魂を感知できたのには間違いはないのだが。父が使っていた大規模な干渉は、初めてであった為座標が上手く指定できなかったのだろう。目的となる地に降りれただけ上出来ともいえる結果だったとも思える。


「疲れるかもだけどもっかい『サーチ』かけるかなぁ・・・?ん?」


 考え事に耽りながら理に干渉しようとした先に、正面が揺らぐのを感じる。

 そこに降り立ったのは、幾つもの剣を背に浮かせる青銀の騎士だった。騎士は瞳を蒼く輝かせた後に重量感のある声を響かせる。


「「何者だ。その領域の大きさ、人間ではないナ」」


 確信をもった言葉に知っている単語が聞こえた。


「人間?」

「「人を知らぬカ。では尚の事先の質問に答えヨ」」


 いや、人間は知ってるよ?あれでしょ?私やお父様みたいな姿をしている生き物でしょ?能力的には大きな隔たりがあるみたいだけど本で読んだもの。どうしよう、お父様以外の生き物と話すの初めてだからどこから話せばいいのかがわからない。無知ではないことを伝えるべきか何者かを答えるべきか。そもそも何者とはなんだろうか?何を答えれば相手の求めている答えに当てはまるのだろうか?とりあえず名乗ればいいのだろうか。


「「語らぬカ、では少し強引にいかせてもらウ」」

「・・・え?」


 突如全身に圧力がかかるかと思えば左腕の肘から先が細切れにされていた。

 あの圧力は知っている。殺気というやつだ、遊びを表した戦闘訓練でお父様から浴びたことがある。それにしても、腕を切られたのを全く感じ取れなかったのも驚きだった。肘のなくなった腕からは今も血が溢れているのが見てわかる。とりあえず元に戻すか。意識を腕に集中し、再生を促した。3秒程で元通りにできた。溢れ出た血で手がびしょびしょになってしまった。どこか水がある場所に洗いに行きたい。


「「ふむ・・・、戦いの経験値がまるでないナ。それでいてこれ程の領域を所有していることに謎が深まっタ。そして極めつけはその再生速度カ・・・」」

「?」


 なんだか一人で考察を始めてしまった。どうしよう、話についてこれない。お父様、何故あの世界にコミュニケーションを磨く本がなかったのでしょうか。あってもお父様しかいない世界じゃ必要性を感じず読むこともなかったとも思うけれど今はそれがすごくほしい。


「「我が神剣を受けて尚何事もなかったように動けるとは恐れ入る侵略者アグレッサーヨ」」

「え?」


 今なんて?侵略者アグレッサー?私は例えるならば旅人なんだけど・・。絶対に誤解が生まれてる。争いの先に滅びる選択肢がある場合。どちらに転んでも負の連鎖しかないとは、どこかの本にあった気がする。まずは誤解を解かなければ。


「「我が名は剣神バァル。戦神マルスの副神である。四肢を封じた後詳しく話させていただク」」

「ちょっと待った。侵略者アグレッサーとか知らっ!!」

「「フム・・・、今度こそ捉えたと思ったがまたも外したカ・・・」」


 今度は右肩ごと持っていかれた・・・。直ぐに戻したけど話が通じないんじゃどうしようもない。これは、対話の経験値が足りていないのは向こうも同じということか。


「勝手に結論出したあなたが悪いんだからね、少し痛い目に見てもらうよ」

「「・・・!!」」


 意識を切り替える。思い出せ。お父様と過ごした日々を、あの頃のを。まずは、先ほどから鬱陶しい殺気を倍にして返そう。次に戦うための型に切り替える為にに触れる。

 道

『我が道を示せ、烈火。─ロード=炎帝カイザー─』


 白銀の髪が紅蓮に染まり炎を纏う。正面には1本大剣が突き刺ささった。


「「なんだ・・今のは・・・なんだあれは・・・・?」」

「あなたが満足するまで、付き合ってあげるけれど・・・」

「「・・・・・・」」

「1発ぐらい殴らせろ!」

「「ふっ!!」」


 一瞬のうちに詰めて拳を振りかぶったけれども空振りに終わってしまった。お返しにと切り落とされそうになるけど速度にものいわせて強引に剣を割り込ます。

 バァルは後退しつつ様子を伺っているようだった。今なら会話できるだろうか?


「「滅茶苦茶だが経験がないせいかその程度か・・・、絶大な力はあれど技がないというのも珍しイ。生かすのはやめよウ。今のうちに摘み取ル」」

「ぎっ!」


 先ほどより1撃が重く速度や動きに洗練されたものに変わる。無理やり受け止めるが小さな傷は増える一方だった。集中しろ、相手をよく視ろ、感じろ、その全てを、そして、しろ!。


「・・・こう?」

「「ムっ!!!?」」


 剣が合わさり火花を散らしながら互いに後退する。


「「・・・模倣カ?厄介な」」

「スゥーーーっっ」


 集中を切らすな、うまくいった。一つの術理を理解できれば後は時間の問題だろう。


「でもまず先に!」

「「ぐオっ!!!」」


 押し付けるように互いの差を詰め剣を膠着状態にした後、入れ替わるように見せかけて、至近距離の隙を狙い殴り飛ばした。


「ようやく1発与えられた!」

「「ぐっ貴様!」」


 それからしばらくの間はこちらの攻撃が通ることもなく膠着状態が続いた。

 向こうは目的は変わらずこちらを殺すつもりで襲ってくる。私に至っては、何で戦っているのか忘れている気がする。戦う必要はなかったと思うけど何をしたかったのか全然覚えていない。そんな時だった。


「「双方!そこまでにせよ!!」」


 互いの間に熱線が降り大地に風穴を開ける。


「「大神ヨ何故止める。侵略者アグレッサーに肩入れする気カ」」

「いやだから、私は」

「「この娘は侵略者アグレッサーに非ず。して表すならば来訪者または、旅行者が正しかろう」」

「「なヌ!!??」」


 あぁ、ようやく話が進みそう。そう思う急に疲れが増してきた。戦闘態勢を解き髪が元の白銀に戻る。それに合わせて脱力感からか尻もちをついてしまうのだった。


「「娘よ、大変な迷惑をかけたな。少し互いの情報のすり合わせを行おうか。なに、時間はまだある、考えをまとめながらでいいから貴様の事を教えなさい」」


 言葉一つ一つに見えない圧を感じる。これが。さっきの奴の名乗りを聞く限り奴の上位存在多分今の私じゃ勝てないかもしれない。

 そんなことを考えながら、どこから話せばいいのか悩みながら。ゆっくりと私は、を踏まえて自己紹介をするのであった。

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