○○番の男

羽之 晶

「○○番の男」

 カメラの準備オッケイ。

 撮影開始……。


 今日はある男性から届いた一通のDMをみて都内某所へとやって来た。

 数々のオカルト系DMが俺のもとに届くが、これまではあまり相手にしてこなかった。

 中にはガセネタも多く、それらを検証するだけの労力やコスパが悪い。


 だが、今回何故このDMに興味を持ったかと言うと、内容云々ではなく、それがちょうどのDMだったからである。

 たまには騙されても良いと思う気持の反面、このキリの良い数字に何かを感じずにはいられなかった。


 ――『一日俺と行動を共にしてくれれば、有り得ない事を目の当たりにしてみせます』


 たった一文のこのDM。

 他のDMは原稿用紙何枚分だと言わんばかりのを書き殴ってくるのが普通なのだ。


 このDMには具体性がまるで無いのだが、と言う断定的な文字には、どこか惹かれる部分もあるのは確かだ。

 ガセネタほど断定的なニュアンスを避ける傾向になるのは、俺の経験則から言っても間違い無いと思える。


 さて、このカメラに映る男。

 桐谷 歩きりたに あゆむ、二十歳。大学二年生。

 物静かな性格の彼だが、雰囲気はまるでなく、どちらかと言えば爽やかな好青年である。

 朝の十時に会ってから軽く自己紹介を終えたところで歩き出した。


「えっと……今日一日、君と一緒にいれば有り得ない事が起きるんだよね」

「はい」


 そう淡白に答えた彼の背後にハンディカメラを向けて、俺は近くのコンビニへと入ったが、途端に謎の違和感に気付く。

 自動ドアが開くと五秒程のメロディーが鳴るのだが、この日、耳にしたのは聞いた事がないような豪華な音だった。

 それに続き、店長と思しき中年の男がクラッカーを鳴らし、ギラついた笑顔で近寄って来る。


「おーめでとうございます!! 当店が開業してから丁度一万名様のお客様となります」と桐谷君を称え始めた。


 だが、とうの本人は驚く事もなく冷めた眼差しで記念品を受け取るだけだ。

 桐谷君のあまりにも薄い反応に拍子抜けしたのか、カメラに映る店長はもう一度桐谷君を称える。


 ちゃんと状況が理解できているのか?

 カメラが回っているから喜びを爆発させる事ができないのか?

 俺は桐谷君の表情をズームアップした。


「桐谷君。凄いじゃないか。丁度一万人目のお客様だって」

「みたいですね」

「みたいですね?」



 カメラはコンビニの自動ドアを潜り、繁華街の人並みを抜けると近くのファミレスへと向かった。


 店内に入るや「おめでとうございます!! このお店がオープンしてからお客様が丁度十万人目となりますぅー」とシェフの格好をした店員と、ウェイトレスが笑顔で桐谷君の来店を祝い始めた。


 二店舗連続のキリ番を踏むとはある意味奇跡だ。

 こんな事があるのだろうか?

 そして、桐谷君本人はまったく喜ぶ素振りがない。

 むしろ飽き飽きとしている様にも見える。


 テーブル席につきランチメニューを注文すると、本題について聞くことにした。

 カメラを一旦テーブルの端に置いて、俺達が向かい合っているアングルを画角に収める。


「もう気づいてますよね?」と桐谷君が冷めた表情で言った。


 気づいているとは?

 俺が目の当たりにしたのは二店舗連続でキリ番を踏んだ事だが……もしかしてそれの事なのか?

 だが、そんな事が可能なのだろうか?


「まさか……二店舗連続でキリ番を踏んだ事なのか?」

「まぁ、そうかな。貴方は二店舗連続かも知れないけど、俺は毎日、毎回だ」


 カメラは、つまらなそうに溜息をつく桐谷君をじっと見つめる。


「そんな馬鹿な……」

「そんな馬鹿な事があるんですよ」


 そこへ、ハンバーグランチを届けに来たウェイトレスの女性がまたもニヤついた笑顔を向けてきた。


「あの、お客様。私もビックリなんですけど、このハンバーグランチを一万食目にご注文されたのがお客様になります」

「あぁ、そうなの」


 そう言ってナイフとフォークでハンバーグを切り口へ運ぶ桐谷君に尋ねた。


「今のも偶然なのかい?」

「まぁ、偶然ですね」

「超能力者か?」

「はぁ? まさか」

「じゃあ。どうやってキリ番を狙えるんだ? お店と裏で繋がっているとかでは無いだろうに」


 桐谷くんはグラスの水をゴクリと飲むと語り始めた。



 それは半年前。

 彼の二十歳になる誕生日の事だ。

 祖父の家へ久々に家族で訪れ、桐谷君の誕生日パーティーをしていた。


「お誕生日おめでとう。あゆむ」と家族からプレゼントを貰い、ケーキに刺さったロウソクの火を吹き消す。


 初めてのチューハイを飲み、ふわふわとしたえも言えぬ心地よさを経験したそうだ。

 揚げ物のオードブルや寿司が食卓から消え一息ついた後、桐谷君はおもむろにコンビニへ向かった。

 スナック菓子を買い足したい事と、運試しにとアニメの一番くじを引く為だ。


「お客様!! おめでとうざいます」

「はい?」


 どうして店員が自分の誕生日を知っているのか? と疑問に思ったそうだが次に告げられたのが……。


「このコンビニがオープンしてからお客様が丁度一万人目なんです!!」

「えッ!? マジで!!」


 一番くじは外れたが、記念品を貰って気分上々で祖父の家に帰りその事を報告した。

 すると祖母が淹れたての緑茶をすすりながらこう言ったのだ。


「お前はキリ番の男やでなぁ」

「キリ番?」

「なんや? お母さんから聞いとらんのかいな。お前が産まれたのはその病院での丁度一万人目なんじゃ」

「聞いてたけど、だから何? って感じだよ」

「んでやなぁ。婆ちゃんが若い頃、こんな言い伝えがあったんよ。キリ番に生まれた者がキリ番の歳の誕生日にキリ番を引くと一年間はキリ番を踏み続けるんじゃと」

「何だよそれ?」


 そんな作り話を信じるはずもなかった。その時までは……。

 だが、次の日から始まったのだ。


 ――キリ番の嵐が。


 初めての店に入ればキリ番を祝われ、頼んだ料理はキリ番だと言われ、出来た彼女にもキリ番目の男だと言われた。

 テストの点数もキリ番、体重も少し増えてキリ番、身長も少し縮んでキリ番、親知らずが抜けて歯の本数もキリ番になった。


 喜ばしいはずのキリ番も度が過ぎると迷惑だと感じ、喜びもいつしか憤りへと変わっていく。

 そっとしておいて欲しいのに、いちいち騒がれる煩わしさ。

 いつしかキリ番は桐谷君にとっての呪いとなっていた。



 一通り経緯を語った桐谷君は結露したグラスに口をつけた。


「こう言う呪いっていうか、人間が居るって事を知って欲しくてDMを送ったんです」

「なるほどね。でもまだ信じられないな。そんな事が本当にあるなんて」


 もちろん会計での支払も税込でピッタリ二千円だった。


 雑踏の中を進みながら、俺はカメラを止める事なく質問を続ける。


「そのキリ番で君は良い思いもしたはずだろ。他人から見れば喉から手が出るほどに羨ましい力かも。宝くじだって番号を選べるモノなら当てられるんじゃないか?」

「あー。なんかね自分からキリ番を狙いに行ったらダメみたいなんです」

「そ、そうか。あくまで偶然じゃないとダメなんだな」



 暫く道を歩いていると、一人の老婆があたふたとしていた。

 聞くと病院までの道が分からないとの事だ。

 俺と桐谷くんで病院まで案内することにした。


「親切にどうも。誰に道を尋ねても教えてくれなくてね。ちょうど十人目があんたで良かったよ」


 そう礼を言われ、やってきたのは街の個人病院だった。

 外観は洋風で洒落た佇まいをしている。

 主に内科と消化器系専門病院らしい。

 一階のエントランスは広く、木目調の壁と柔らかいグリーンのソファが落ち着く空間を演出している。

 患者も多く、見立てが良いのか人気がありそうだ。


 思わずソファに腰を下ろそうとしてしまったがここに用はない。

 その時、俺の脳裏にある疑問が浮かびカメラを桐谷君に向けた。


「桐谷君。病院に来たけどキリ番じゃないみたいだね」

「だってここに用はないですし。患者としてなら確実にキリ番だったと思いますよ」

「そ、そか」

「それに病院がキリ番の来院者を祝ってどうするんですか」

「た、確かに……」


 俺とした事が、八つも年下の桐谷君に一本取られてしまった。

 不思議な体験をすると、常識や教養がブレると聞いた事があるが……それは間違い無いようだ。

 そんな考えを、突然の女性の悲鳴がかき消した。

 何事かと、慌ててカメラを声がした出入り口へと向ける。


 そこには二人の男が立っていた。

 一人は耳の膨らみからして柔道家なのか? 膂力りょりょくに満ち溢れたガタイをしている。

 もう一人は細身で爬虫類のような人相の男だ。患者であろう若い女性を背後から羽交い絞めにし、首元にナイフを突きつけている。


「院長を出せやコラァ」とガタイの大きな男が掠れた太い声で叫ぶ。


 続いて爬虫類顔の男が遠くへ向かって濁声だみごえを轟かせた。


「テメェが眠り薬仕込んで犯した女が、組長の娘って知ってたんかゴラァ!!」


 静まり返るエントランス。

 本来ならこの状況でカメラを止めてしまうだろうが、俺の中のジャーナリズムの精神が撮影を諦める事を許さなかった。

 とは言え、露骨に撮影しては確実に目をつけられてしまう。

 そっと脇でカメラを挟み、生地の隙間からレンズを覗かせる事にした。


 突然、ガタイの大きな男が受付台から身を乗り出し、中にいた女性看護師へ襲いかかった。

 続け様に周囲の看護師達の悲鳴が鳴り響く。


「テメェ、サツに電話してんじゃねぇぞ!!」


 暫くの間静寂が続いたかと思うと、ガタイの大きな男が受付の中からゆっくりと立ち上がる。

 その直後、恐怖で動けなかった看護師達が、襲われた看護師の名前を上ずった声で呼び続けた。


 受付からエントランスへと出てきた男に、爬虫類顔の男が声を掛ける。


「殺ったのか?」

「あぁ」


 その言葉に凍りつく患者達。

 勿論俺もだ。

 そして、横にいた桐谷君も青ざめた表情をしていた。

 キリ番の力を持つ彼でも、この状況を乗り切る事が出来ないのか?

 普通に考えてキリ番で太刀打ちできるはずがない。

 神がかった力も、分野が違えば実に無力だ……。


 爬虫類顔の男は、腕の中で震えて涙を流す女性の肩ごしに、興奮した様子で声を挙げた。


「この病院を見つけるまでに、俺たちゃもう今朝から七人も殺してきんだよ。あ、そこの看護師の姉ちゃんを入れて八人か。……そしてこれが九人目だ」


 患者の首に深く突き刺さったナイフは、断末魔を上げる事すら許さない。

 白目を向き、全身を硬直させたかと思うと男の腕の中で痙攣し……動かなくなった。

 その残忍で凄惨な光景に、患者達からは耐え切れぬ悲鳴や嗚咽する声が漏れ聞こえる。


「さぁて。記念すべき十人目は誰にすっかなぁ。早く院長出てこねぇかなぁ。どんどん患者が死ぬぞぉ」


 その言葉を聞いて、俺はハッと桐谷君を見た。


 ――震えている……。

 

 まさか、キリ番が発動してしまうのではないか?

 彼にとっても予想外の出来事なのは間違い無い。

 これほどまでにキリ番を踏みたくないと思った事はないだろう。


 俺は小声で「桐谷君……もしかして……き、キリ番……」と声を掛ける。



 男は下卑げびた笑い声を上げながら、患者達の中から小さな女の子を掴み引きずり出した。

 泣き叫ぶ女の子と、必死に追いすがる母親。

 母親を蹴り飛ばし女の子の首にナイフの先端を突きつける。


「そうだなぁ。キリ番の記念はお嬢ちゃんが選ぶんだ。誰にする? 君の代わりは誰に死んで貰おうか? 選ばねぇとお嬢ちゃんに死んで貰うよ」

「だったら私を殺して!!」

「母親は駄目だ。へっへっへ……」


 涙と鼻水で顔をクシャクシャにしながら女の子は震える指先を彷徨わせる。

 桐谷君は今にも泣き出しそうな表情を見せたかと思うと、深く深呼吸し口を開いた。


「カメラ……回ってますか?」

「お、おう」


 そう言って、脇の隙間で光るレンズをさりげなくアピールした。


「キリ番の最後って奴をしっかりと収めて下さい。分かっているんです。どうせ俺が選ばれる。だったら自分から行ってやる。そしてあの女の子は死なせない」

「桐谷君……」


 覚悟を決め、一瞬にして勇ましい表情へと変わった桐谷君。

 膝に力を入れ立ち上がろうとした彼の肩を、近くにいたスーツ姿の若い女の手が掴んだ。


「ちょっとまって」と言った女性にそっとレンズを向ける。


「君……もしかしてキリ番でしょ?」


 女性の言葉に一番驚いていたのは桐谷君だろう。

 呆気に取られた感じで小さく返事をした。

 桐谷君がキリ番の男だと分かると女性はゆっくりと立ち上がった。


「やっぱりね。まだカウントされてるのは一桁でしょ。だったら私が行く。私ならまだ大丈夫だから」


 彼女が言っている意味が分からない。

 それよりも何故、キリ番の事を知っているのか?

 俺や、勿論桐谷君よりもこの謎のルールに詳しいようにも思える。

 桐谷君がそっと尋ねる。


「あなたは?」


 女性はナイフを持った男を睨みながら勇ましい表情でこう言った。


「私は、ゾロ目の女よ!!」


 どう言う事だ? キリ番の男以外にゾロ目の女だと?

 それよりも……なんだろうか? 彼女の背中がカッコイイ。

 そして何もできずに隠撮りでしか抵抗出来ない自分が恥ずかしいとも思える。

 心なしか、桐谷君の表情に安堵の色が見えた。



「なんだお前が代わりに死ぬってのか?」と男は彼女の脚から頭へと視線で舐め上げた。


「何か文句ある? 代わりにその女の子を開放して」

「へっへっへ。良い女じゃんかよ。殺すには惜しいなぁ。今ここで犯すってのもアリかもな」

「冗談言わないでよ」


 男は女の子を開放すると、ゾロ目の女の腕を掴み受付台の奥へと引っ張る。


「おい、俺は裏でコイツと楽しむからよ。お前が十人目殺っとけや」とガタイの大きな男へ指示した。


「ちょ、ちょっと話がちが……」と言い残し、ゾロ目の女はエントランスから消えた。


 ガタイの大きな男は面倒くさそうに「好きだなアイツも。まぁ良い、さっさと殺すか」と言うと、指先をグルグルと回しながら次の犠牲者を選び始める。


「お前だ。そこのガキ。顔が気に食わねぇ」


 ――桐谷君だ……。

 てかやっぱり桐谷君なのだ。


 助け舟からの結局自分と言う、急転直下、ジェットコースターの様な出来事に言葉を失う桐谷君。

 悲壮感が溢れ出す表情をレンズが捉える。


「おい、早く出てこい。恨むんならココの院長を恨むんだな」


 桐谷君は男に急かされ、震えながらゆっくりと立ち上がる。


 その時!!


「警察だ!! 動くな!!」と言う大声と共に、出入り口から銃を構えた警察が雪崩込んで来た。


 流石日々鍛錬している警官だけの事はある。

 ガタイの大きな男でも簡単に仕留められ、両手に手錠をハメられてしまった。

 ネイビーのロングコートを来た刑事が周囲を見渡す。


「人質の安否の確認と負傷者は直ぐに救急搬送しろ。そして、あと一人いるはずだ」


 刑事がそう言った時、手をパンパンとはたきながらゾロ目の女が受付の奥から現れた。

 警察の登場に困惑した表情で驚いている。

 カメラは、受付奥の部屋で伸びている爬虫類顔の男をしっかりと捉えていた。



 警察からの事情聴取が終わり、署から出たのは夜も遅かった。

 立ち去ろうとしたゾロ目の女に桐谷君が声を掛ける。

 キリ番の男とゾロ目の女。

 この対談を逃す訳にはいかないと思い、俺はカメラをしっかりと構える。


「ちょっと」

「なに?」

「君は何なんだ? ゾロ目の女って」

「そのままよ。意味はキリ番の君にも分かるでしょ?」

「じゃあ、ゾロ目に関係した事が起きるのか」


「そうよ」と女は溜息じりにそう言った。


「ゾロ番に何かが起きると分かっているなんてつまらないわよ。一桁の数字には無縁だし、君みたいに祝われる事もなければ、得する事なんて何もない。今日は二十二回目の通院だったの。嫌な予感がしたけど……まさかね」


 そこで俺は思わず会話に入った。


「なぁ。他にもいるのか? こう言う数字の力を持った人間を」


 女は肩をすくめながら「さぁ。知らない。でも私達がいるなら他にもいるんじゃない」とキッパリと言った。


「また会えるかな?」と桐谷君が声を掛ける。


「キリ番かゾロ目の縁が合えば、どこかで会えるかもね」と肩ごしに言うと、女は立ち去った。




 ゾロ目の女と別れた俺達は近くのラーメン屋へと向かう。

 そしてまたキリ番を祝われ、俺のラーメンも無料となる。

 カメラをテーブルに置き、濃厚とんこつ醤油ラーメンをすすりながら俺はしみじみと語った。


「キリ番か。神がかりな力も状況によっては吉にも凶にもなるものだな。振り幅が凄いよ」

「ですね。半年間もキリ番やってますけど、今日ほどヤバいって思った事はなかったです。良い事も悪い事も起きるなら、これからは祝ってくれるなら甘んじて受け入れようって思いました。だって勿体ないでしょ」


「おっ、心境の変化」と言い、桐谷くんに割り箸を向ける。


「それに今日亡くなった人を見ました。あのチンピラ達、少なくとも九人は殺したって言ってました。俺に何か出来るなんて分かりませんけど、その人達が踏んだかも知れないキリ番を、俺が代わりに踏んでやろうって思ったんです。その人達の為に喜ぼうって」



 ラーメン屋を後にした時には既に日は変わっていた。

 そろそろ密着取材も終わりだ。

 最後に、桐谷くんは行きつけのコンビニに向かうと言うので俺も付いていく事に。

 行きつけだから、もう暫くはキリ番を踏む事はないらしい。

 アニメの一番くじを毎日引いているそうだ。


 これも何かの縁だと思い、桐谷くんに続き俺もくじを購入した。

 桐谷くんはC賞だ。

 そして俺はD賞だった。


 するとコンビニの店員が笑顔でこう言った。


「お客さん。丁度ラストワン賞ですね」

「マジっすか!?」

「しかも、この後で閉店するんです。だから実質お兄さんが最後のお客様って事です」


 桐谷くんも俺のラストワン賞を喜んでくれた。

 ……が、何か引っかかったのか、俺にある事を尋ねる。


「あの、もしかして今日って、誕生日じゃないですよね?」

「えーとね。……さっきで二十九歳になったわ……」


 俺と桐谷君は声を揃えてこう言った。


 ――「末番の男じゃん!!」





 撮影終了。

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○○番の男 羽之 晶 @soranaoki

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