[戦記] 深海魚

一、棺桶の中に入れて、炎ですべてを壊させる。

魚は水がなければ生きられない。

そして泡...泡は、やはり海には似合わない。 今はどんなに抵抗しても、いずれは光のあるところに上がらなければならない。

ほら､泣くなよ。

ブサイクなんだからさ。うわー痛、冗談ですよ、本当に...

こんな時にそんな顔を見て思い出さないでくださいよ。

あはは...冗談ですよ、冗談...最後の思い出があんな顔にならないようにね。

これはさいごの命令です。

見てきたらどうだ？ 機会があれば教えてください・・・。

青空は、本当にポスターの絵と同じように見える？

本当に、命をかけて戦う価値がありますかな？

x

私には、本当には他人の「物語」を書く資格はありますか？時々、茉莉は自分に問いかけずにはいられなくなる。

いいえ。

たまにではなく、ずっとだ。昔は忙しい生活のおかげで、一時的におろそかになっていただけで、事実上の引退状態に入った近年は、いわゆる「老後クライシス」に片足で簡単に陥っていると思わざるを得ないのだ。


「茉莉さんは、どうですか？ いつも他人の人生を忠実に記録してきた君、自分のことはでしょうか。」

「『20年後』、『50年後 』はどうなんだろう？ 未来の世代に忘れ去られないために、歴史を繰り返させないために、お願いします。」

同輩がしつこく取材の誘いをかけてくること。

期待の若者の言葉も。

「それが私たち世代の使命です。」

あとは、記者会見の最後に、元クライアントが肩をたたきて言った言葉である。

忘れ去られないために⋯⋯？

いいえ、全然。

やっぱり、忘れられたらいいなと思うんです。

特に、自分のこと。

黄色いライトが点滅する十字路で、茉莉は首を振って歩みを速めました。コートのポケットに手を入れ、ワインレッドのマフラーの温もりに顔を埋め、長い年月をかけて雪のように白くなった髪が舞っています。

本当の「茉莉」はどんな人なのか？

何も知らないのに、なぜ確信を持って話すのだろう？

もしかしたら、名声と富を求めていただけなのかもしれない、そんなことは誰にもわからない。どうしてこの人たちは、こんなに信頼して、こんなに簡単に、勝手に自分を見てしまうのだろう。

自分の思いは、崇高なまでに悲しんでいる取材陣のそれに比べれば、あまりにも浅はかだった。

だから、ついて語ることは何もなかった。

茉莉は意を決して、誘いを断り、熱心に好奇の目を向けられるのを避け続けました。

——しかし今日、待ちに待った仕事の依頼が内なる沈黙を打ち破った。

x

インタビューに答えてくれた人を見て、一瞬、息をのむほど驚いた。

茉莉は「楓樹」という老兵に見覚えがある。

旧帝国の首都から村の通りまで、一世代ほど前から知っている名前であり、名前だけでは何の証明にもならないが、相手からの依頼状には、昔、火が燃えている写真が載っていた。

今の電極投影とは比べものにならないほど鮮明で、形で、心を深くとらえ、すべてを確認させてくれたのです。

白髪や金髪のまぶしい光、熱い日差しの中、それでも際立つ無数の傷跡、同僚たちの興奮した囁き......

若い少佐は彼女の手を取り、「君は私の知っている人に似ているね」と言った。

その目はとても真剣で鋭く、明らかに消えてしまいそうなほど薄いグレーブルーの瞳孔は、遠い昔の記憶にその存在を刻み込んでいたのだ。　

今日、まるで歴史が繰り返されるように、彼はランプスタンドの調整を手伝ってくれた孫娘が、記憶の中の人を間違えていました。

「君は、」

「やっと、会いに来てくれた。」

「『死んでない』驚いたか？ 私が死んでいないことに驚いているのか？」

「私がくだらないことを言うな老人になったことに驚いているのか。」

「長い間、待っていたんで、 ごめん、 本当に⋯⋯『 』」

聞き取りにくかったが、それは誰の名前を確信した。

x

「バウンシーバウンシーバウンシー、ウサギの穴1つ、カブ2つ、むしり取る、むしり取る、むしり取る～」

電気をつけてドアを開け、ライティングデスクに乱雑に財布の鍵を落とした途端、リビングのサウンダーがチャイムを鳴らし、咒陣に出るように促した。

少し視線を移し、茉莉は微笑んだ。

浮き上がる線を見ずとも、それが息子だとわかった。10年以上変わらない特別なセッティングの柔らかいリズム、孫娘が保育園に通っていた頃に選された童謡。

でも、毎週の定期電話は1日前...おそらく、孫娘が今日の出来事を息子に話したからでしょう？

薄暗い廊下で、足元を暖かさが通り過ぎていく。

今は、かがんでヒーターをつけることも簡単にはできなくなりました。

しかし、茉莉は慌てず、右手のリングをくねらせながら、足の指先を巧みに払いのけ、指を弾いてリビングのランプに明かりを灯すのです。

「ママ、聞いてるの？」

「......あ、え、すみません、もう一度言っていただけますか？ 聞き直さないと...」

「耳を測ってもらい、呪文の加音咒を作ってもらうと言ったのに...」

霜の降りた窓際に立ち、冷たいガラスを指で拭きながら苦笑いを浮かべると、はっと我に返った。

いつものことだ。

誰にインタビューしようが、何が起ころうで、 話しながら、キッチンをうろうろする。

お茶を入れる気分ではなかったので、普通の淹れ粉を使ったが、口に含むと、安っぽい粒々の乾いた味の記憶がよみがえる。

海岸近くの家の窓の外には、安定した潮騒の音が聞こえ、それとともに湿度も上がっている。

今日書き留めた書類を片付けるのも面倒だし、早く寝ようと思ったのだ。

電話を切ると、静かに食器棚を開け、首を傾げて睡眠薬の缶を飲み干した。

こんなことも。そんなことも。

やはり、息子が知ったら、心配になりますよね。

茉莉は柔らかいベッドの上に無表情に仰向けになり、天井を見つめて思ったのだ。

⋯⋯⋯うん。

「茉莉」という人の「本当の過去」、隠された実態は、誰も知らない。

許されざる罪の魂は、毎日毎日、時間をカウントダウンしているのです。

隠れ戦犯として生き抜いてきた彼女は、ある日、その秘密を棺にしまい込み、炎にすべてを焼き尽くされることになる。

彼女は、決めたんだ。

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

明日の章の予告：

見ざる、聞かざる、言わざる。