本音
ジャンパーてっつん
本音
私の人生はうまくいっている方だ。
裕福な家庭のもとに生まれた私は幼少期、自然に囲まれた土地でのびのびと育った。自由に育ったのが良かったんだと思う。小学生の時は習い事のバレエで都のコンクールに出場できたし、中学高校はブラスバンド部で全国までいくことができた。学校での人間関係も割とうまくいっていたかな。今思うと姉御肌の性格だったからだとも思うけど、とにかく、学生のうちで女としては珍しく、女子特有のギスギスした人間関係に悩まされるようなことは無かった。初めて彼氏が出来たのは大学生のころだっただろうか。何人かの男性と恋愛経験を積んでいく中で、たくさん傷いて相手を傷つけたけど、自分以外の誰かを心から愛するというある種の余裕を身につけられたのはちょうどこの時期だった。卒業後はそこそこ名の知れた企業にも就職が出来て、30歳手前で結婚。二人の子宝にも恵まれ、3人の孫にもお目にかかることが出来た。
もちろんすべてが順調に進んでこれたかというとうそになる。どれも今では笑い話だが、大学受験は2回失敗しているし、(あの当時女が浪人なんて恥さらしの何物でもない)、就職先でのいじめや上司からのセクハラまがいな行為なんかもあった。夫の浮気はどうやらどの家庭でも女の通過儀礼みたいだが。さすがに、13の息子の反抗期と、16になった長女が入れ墨の入った男との間で妊娠したとわかった事が時期的に重なった時はだいぶやられたかな。でも、なんとか。なんとか自分なりに筋通して、血へどはいてでも頑張って生きてきたつもだ。だからといってはなんだけれど、ついこないだ開かれた米寿祝いにはたくさんの人が集まってきてくれた。これは私の姉御肌の気質もあるかもしれないけれど、今までの私の生きざまを周りがちゃんとみてきたからだと思う。だから、やっぱり私の人生は総じてうまくいっていると思うんだ。
でもね。最後に一つだけ。神様どうか私の本音を言わせてください。
もう長い間つめたい風にされされている老婆の顔は痛々しいほどに赤く変色していた。がっしりと背中に手を回して鉄塔をつかんでいる両腕も、とっくに限界を迎えている。
12/13(木) 16:20 東京スカイツリーの頂上から老婆は飛び降りる。
「☓☓☓☓☓☓☓☓!!!☓☓☓☓☓☓!!!」
老婆の言葉は、誰にも届くことはなかった。
本音 ジャンパーてっつん @Tomorrow1102
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