第23話
午後12時半すぎ。温泉サークル部室。
「予定通りみんな揃ったね~」
「空ちゃんが温泉サークルに入ってくれて嬉しいなぁ~」
「嬉しいのは分かりますが、あまり引っ付かないでくださいよ」
隣に座る凪姉が腕を組んでくる。
当たり前のように胸を当ててくるが、心臓に悪いので止めてほしい。
離れようと左腕を動かしてみたものの、逆に胸の感触に襲われてすぐに諦めた。
「そんなこと言わないでよぉ~。風邪引いたって聞いてぇ、本当にどうしようかと思ったんだからぁ!」
「それと今の状況は関係ないと思いますけど」
「あるぅ! 空ちゃん成分を補給しないとわたし死んじゃうもん!」
「はぁ……はいはい」
風邪引いて心配していたのは、僕のことではなく自分ことのようだ。
成分補給とか意味分からないが、もう少し自分の立派な体を理解してほしい。
一体、何食べたらこんな胸になるのやら。
「それより雫先輩は何で十南の後ろに立ったままなんですか?」
「わたしも気になってたぁ」
「ちょっとね。あんまり気にしないで」
そんな曖昧な答えに、僕たちは首を傾げる。
「とりあえず温泉サークル会議を始めよっか」
話を流すように温泉サークル会議を始める雫先輩。
こちらとしても別に深く追求する気もないので、ツッコまずに残り少ないフラペチーノを飲む。
「えーっとまずは空ちゃんが温泉サークルの正式メンバーになりました。拍手!」
「おめでとうぅ! ありがとうぅ!」
「おめでとうございます」
みんなの拍手と祝いの言葉に、ペコペコと軽く頭を下げる。
あまり歓迎される経験がないせいか、こういうのは何ともこそばゆい。
「それではここでソラちんから一言!」
「え、聞いてないんですけど……」
「うん、言ってないもん! とにかく何でもいいから一言! どうぞ~」
「そ、そうですね。今まで部活やサークルに入ったことなく、グループ活動的なものがよく分かりません。なので迷惑をかけると思いますが、どうか温かい目で見守ってください。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げ、ゆっくりと顔をあげる。
「かたっ! 真面目すぎ!」
「え~そこがまたいいじゃん~!」
「後、一言じゃないし! よろしくお願いしますだけで良かったし!」
「空ちゃんの言葉なら幾らでも聞いていられるけどなぁ~」
何の言い争いをしてるんだと思いつつ、関わるのは面倒なので黙って見守る。
そんな二人に対し、無言で見守る十南は小さく拍手をしていた。
三人それぞれ違う言動をするカオス空間が数分続き、雫先輩が咳払いして話を変える。
「ソラちんに温泉サークルのこと話したっけ?」
「いえ、メンバーが足りてないぐらいしか」
「そかそか。じゃあ温泉サークルについて軽く話そうかな~」
雫先輩はその言葉と同時に十南の両耳を手で覆う。
「さっきソラちんも言ってたように、温泉サークルにはメンバーが足りてない。だから、このサークルは大学には認められてない非公認サークルってことになるんだけど」
「え、僕が入ってもですか?」
「そだよ。大学にサークルと認められるためにはメンバー五人必要だからね~」
てっきり僕が入ってメンバーが足りるものだと思っていた。
あの三人の勧誘の熱量。特に雫先輩の言動を見れば、ラスト一人として勧誘していたと思っても仕方ないだろう。
恐らくラスト一人も同じような勧誘をされると思うと手を合わせたくなる。
もちろん勧誘となれば僕も敵となるわけだが、そこは公認サークルになるかかかってるので許してほしいところだ。
「残り一人はもう決めてるんですか?」
「いいや、いたら今頃メンバーにしてるよ」
「それもそうですね。まぁ非公認サークルでも部室がありますし、そんな焦る必要もないでしょ」
「あーそれなんだけどさ、今のままじゃこの部室4月までしか使えないのよね~」
「……えっ、何でですか?」
予想してなかった返答に頭が追い付かず、少し間を開けてから聞き返す。
それに対して雫先輩は苦笑を浮かべ「何も知らないのね〜」と一言。
小さくため息をついた。
「基本サークルで部室を持てるのは大学が認めたサークルだけなのよ。なら何で非公認サークルの温泉サークルが部室持ってるのってなるわよね?」
「そうですね。大学が特別扱いなんてするわけないですし」
仮に結果を残した非公認サークルなら大学が援助する可能性は無きにしも非ずだが、温泉サークルが結果を残すなんて想像がつかない。
それどころか公認サークルにされるか怪しいところだ。
「んー、かなり生々しい話になるけどさ、この部室って
「あ、危ないことじゃないですよね? 僕たちに危険とかは――」
「ないない。ただ単にウチと右佐美教授でワンナイトしちゃったから、それ利用して部室を借りられるよう頼んでだけだし」
「そうなんです……ね、え?」
淡々と話すものだから何事もなかったように反応しかけたが何とか耐える。
その反応に雫先輩は可笑しそうに笑みを浮かべているが、僕の目は点になっていた。
そんな昼食を一緒にしたよ!ぐらいのノリで話すことじゃない。こういうのは酔った勢いとかで話すものだ。知らんけど。
「大学ではあるあるだよ。ゼミの飲み会で酔った勢いでとかね」
「いやいや、生徒と教授ですよ?」
「右佐美まだ20代後半ぐらいだし、ウチ的には全然ありだったからな~」
平然とそう言い、十南から手を離してスマホを弄る。すぐに「ほれ!」と写真が見えるようにスマホを机に置き、また十南の耳を塞いだ。
黒縁メガネが似合うインテリ風男子。
大人っぽい雰囲気を漂わせており、男の僕でも惹かれる気持ちは分からなくもない。
「というかあっちがベロベロで理性失ったのが原因。無理矢理ラブホに連れて行かれた感じだし~」
「何で抵抗しなかったんですか?」
「ウチだって20超えた女だよ? 性欲ぐらい溜まるって。お酒も入ってたし」
「そ、そういうものなんですね」
「ちょ、何その顔! ウチのおかげで部室あるんだから感謝してほしいぐらいなんですけど!」
僕の引いた表情に不満そうだが、流石に顔に出さずにはいられなかった。
いくら想像通りのタイプだったとしても、本人の口から聞かされると色々と思うこともある。
何というかいつもは主導権を握るタイプなのに、ベッドの上でメスになるとか思うと……ね。
無論ベッドの上でも主導権を握っている可能性もあるが、それでもメスにはされるわけで。
結局、何が言いたいかというとこの人がメスになることを聞きたくなかった。それだけだ。
「てか、ナギちんだってやるもんね?」
「ちょ、雫ちゃん!?」
ゆっくり凪姉に視線を向けると恥ずかしそうに頬を染めていた。
「空ちゃん、違うのぉ。わたしはやらないよぉ?」
「……」
その体で言われても説得力がない。
正直、バリバリやってる想像しかつかないというかやってるでしょう。
これでやってないと言われた方がある意味引く。
「ほんとだよぉ~。男の人とそういうエッチなことはないもん」
「ごめんなさい。それは無理があります」
「もぉ~、雫ちゃんが変なこと言うからぁ!」
「え、やるでしょ?」
「わたしはひ、一人でしかやらないもん! あっ……」
大きな声で言い放った後、目を逸らして縮んでいく凪姉。
まさか一人やるタイプだったとは……驚きだ。
案外、悪くないと思ってしまう僕がいる。
この体で初めてがまだなんて逆にエロい。
うん、エロい。エロすぎる。
「ソラちん!」
僕の名前を呼ぶなり雫先輩はウインクしてくる。それには小さく親指を立てた。
「で、何の話してたっけ?」
「部室が4月までしか使えないって話ですよ」
「あーそうそう。ウチのワンナイトのおかげで右佐美教授に部室を借りれてるわけなんだけどさ、非公認サークルが部室持つのは大学のルール的にはアウトなわけじゃん?」
「そうですね」
「あっちもウチが脅してるから仕方なくやってるだけでバレたら終わりなわけよ。流石に期限なしだとバレるってことで、来年の4月までの約束になったって感じ〜」
「どうにかして期限を伸ばすことって出来ないんですか?」
「期限を伸ばすのは無理だね。顧問が退職させられるリスクは避けたいし。だから、シンプルにメンバー五人集めて公認サークルするのが最善かな〜」
「なるほど」
とにかく今の話を聞いて一つ言えることはタイムリミットはそう長くということ。
雫先輩があの熱量で誘ってきたことに関しても今の話を聞いて納得がいった。
期間がないなら一人をメンバーにするのに本気になるのも当然だ。
特にこの意味不明な季節なら尚更である。
12月から3月末にサークル入部を希望する生徒は少ない。というかほぼいない。
基本サークルは入学した春にそのまま勧誘されて入るもの。
実際、水心と拓海は春に入部していたからな。
「というわけで来年の3月末までの温泉サークルの目標はメンバーを五人にすること! ソラちん分かったかな?」
「はい。僕には勧誘する友達とかいないので雫先輩に任せようと思います」
「あはははは……間違ってないけど、もう少し意欲は見せてほしいな~」
「無理なもの無理です」
「はぁ……頑張りまーす」
面倒くさそうにそう言い、十南の頬を引っ張り出す。
十南は嫌そうではあるが抵抗はしない。されるがままに頬を伸ばされていた。
どこからどう見ても八つ当たりではあるが、雫先輩の気持ちも分からなくもない。
大変な勧誘を丸投げされたわけだからな。
しかし、この中で勧誘するのに最適なのは雫先輩ただ一人。
僕は友達いないし、十南は常識に難ありだし、凪姉は体で誘えそうではあるが良い人材はメンバーにはならないと思う。
それを理解しているからこそ協力を求めないと思うが、計画によっては前回の十南みたいに餌役として使われそうだ。
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