【途中完結】お前に立てた中指。お前の彼女にぶち込んでやろうか？

第11話

「最後はルナちんだよ～」

「私も言うのですか？」

「当たり前！　嫌ならウチが言おうか？」

「いえ、自分で言います。上野先輩は何を言うか分からないので」

「そんな信用ない！？」

「はい」

　これに関しては十南の言葉に同意見だ。

　自分のことを雫先輩に任せるのはリスクが高すぎる。無駄なことや冗談を言われて、面倒なことになる想像しかできない。

　十南の言葉に雫先輩は少しガッカリしていたが自業自得である。

　これに懲りたら自分の言動を改めてください、と言いたいところだが、改める未来なんて一ミリも頭に浮かばないので口にはしないでおく。

「では、北宮さん。私からも理由をお話してもよろしいでしょうか？」

「も、もちろん」

　透き通った綺麗な瞳を向けられ、息を呑んで言葉を返す。

　なかなかされない苗字呼びに少し新鮮さ感じつつも、面接みたいで緊張感を感じ不思議と背筋が伸びた。

「最初に一言。私は先輩たちと違い、あなたの外見を必要と思っていません。それどころか興味すら微塵もありませんのでご安心ください」

「あ、うん」

　そこまで言われると安心じゃなくてシンプルに傷付く。

　必要にしてないことも興味がないことも物凄く分かったが、もう少し言い方を考えて欲しい。微塵とか絶対に言わなくていいから。本当に言わなくていい。

「私が必要と思っているのは、あなたそのものです」

「僕そのもの？」

「はい。あなたさえいれば、私は必ず幸せになれます。だから、私にはあなたが必要なのです」

　今のは告白だろうか。プロポーズにも近い気もする。

　そうだった場合、外見に微塵も興味がないのに、一体どこに一目惚れして熱烈な告白をしてきたのかという疑問が生まれるが、ふざけた様子はない。

　無表情だから表情から何も読み取れないのが厄介だ。

　仮に告白だとして、どう返答すべきだろうか。

　大前提として告白を受け入れる気はない。好きでもない相手と付き合うなんて時間の無駄だ。それに水心への恋心が完全に無くなってない以上、相手にも失礼だし僕自身が複雑な気持ちになってしまう。

　そうなると必然的に選択肢はＮＯしか残ってないのだが、失恋を知っている身としてあまり傷付けたくはない。やはり無難に友達から始めようと言うべきか。それとも淡い期待を持たせないためにも、はっきり断った方がいいのか。

　悩みどころである。

「……この子、小悪魔だな……。ソラちん大丈夫？」

「え、はい。何がですか？」

「見た感じかなり考え込んでるみたいだったからさ。別にルナちんの言葉、真面目に考えなくてもいいんだよ～」

「それは……どういう意味ですか？」

「ソラちんが思ってるようなことは一切ないってこと！」

「なっ！？　何のことですか？」

　僕の分かりやすい反応に雫先輩は苦笑する。

「ルナちん彼氏いるし」

「か、彼氏いる？　十南って彼氏いるの！？」

「私、彼氏いますよ。付き合って半年になります」

　本人までもが肯定。

　ついさっきまで告白の断り方について真面目に悩んでいたことが恥ずかしい。顔の温度が上昇していくのが分かる。頬を二度、三度叩き、顔の火照りがバレないように試みるが、目の前にいる雫先輩は可哀想とでも言いたげな目をしていた。

　自爆なので止めてとも言えず、その目を避けるように変わらぬ表情の十南に視線を向ける。

「じゃあ何でこのクリスマスパーティーに来てんだよ」

「今日は予定があるようで、彼氏とは昨日のクリスマスイブにデートしました」

　クリスマスイブにデートしたは一言余計なんだよな。

　自慢か？　自慢だよな？　自慢ですよね？

　彼氏、彼女がいる人はいいですね。さぞかし幸せでしょう。

　いくら愚痴を言っても仕方ないので、ここらへんで我慢しておく。

「てか、彼氏いるなら僕必要ないよね？　彼氏に幸せにしてもらえばいい話だし」

「それは違います。私が彼氏と幸せになるために、あなたが必要なのです」

「言ってる意味がさっぱり分からないな。僕と二人の幸せに何の関係があるの？　上手くいってないなら先輩たちに相談すればいいだろ？」

　僕は恋愛マスターじゃないどころか半年前に失恋している身。

　恋愛相談に乗っても力になれる気はしない、否、絶対になれない。

　誰に何を吹き込まれたかは知らないが、恋愛関係で必要にされても困る。

「先輩たちではなく、あなたが必要なのです」

「はぁ……その意味が分からないって言ってんだが」

　このままでは埒（らち）が明かないので、雫先輩に視線を向けると察してくれたようで口を開く。

「簡単に言うとね、ルナちんの彼氏がソラちんと関りがあるんだよ。だから、色々と力になってほしいってこと～」

「そういうことです」

　雫先輩がいなかったら後二時間は立ち止まっていたと思いつつ、改めて十南の話下手さを痛感する。

　やっと必要とされる理由が明白となったわけだが、肝心な相手が分からないまま。

　僕と関わりがある男……拓海はまずない。水心と付き合っていることを知っているからこそあり得ないと言える。

　他に思い付くのは教授やゼミの男子、バイト先の男子、スーパーの店員ぐらいだ。

　今のところ、この人だ！と思える人は誰一人としてパッと出てこない。

　他に誰かいただろうか。

「十南の言いたいこと何となく分かったが、正直その彼氏に心当たりがない」

「そんなはずありません！　私は見ました。あなたが彼氏と仲良く談笑する姿を」

　食い気味に否定してきたが本当に心当たりは皆無。

　仲良く談笑なんてもう半年はしていない。

　一体、誰と見間違えたんだろうか。

「人違いじゃないのか？」

「いえ、この目で見ました」

「目で見たものが間違っていないとも限らないだろ？」

「そう、ですが、この目でしっかりと談笑する姿を見たのです……」

　尻すぼみな声。十南は少し落ち込むように視線を下に向ける。

　恐らく彼氏のことで悩んでいて、僕が唯一の希望だったのだろう。先輩たち二人は経験豊富そうだが変わり者だ。あまり役立たなかったに違いない。

「雫先輩ちょっといいですか？」

「ん？　なになに～？」

「十南の彼氏の写真を見せてもらうことって出来ますか？」

「いやいや、何で持ってる前提なの！？　ウチに盗撮趣味も人の彼氏の写真集める趣味もないから」

「え、持ってないんですか？」

「持ってない持ってない」

「上野先輩、本当に持ってないのですか？」

「ちょ、待って。ルナちんまで何で疑ってんの！」

　怪しむ瞳を向ける僕たち二人に、たまらず頭を抱える雫先輩。

「はぁ……その質問するならさ、まずルナちんにしなよ。順番おかしくない？」

「それもそうですね。十南、彼氏の写真見せてくれないか？」

「残念なことにスマホの充電がありません」

「だそうです」

「ウチにだそうですと言われても困る」

　困るのはこちらも同じだ。

　充電がない以上どうすることも出来ない。

「なぜ二人ともウチに視線を向ける？　後、その本当は持ってるでしょ？みたいな目やめてくれないかな？」

　心底嫌そうな顔しているが視線の先を変える気はない。

　自分の言動が招いた状況だと思ってもらうには絶好の機会だ。

「というか、写真じゃなくても名前聞けば、人違いかどうか分かるんじゃない？」

「言われてみればそうですね。雫先輩、流石です」

「いやいや、少し考えれば分かるでしょ」

　これ以上の視線は御免と言わんばかりに「ほら、ルナちん彼氏の名前なんだっけ？」と視線の十南に向けさせる。

　一体、誰の名前を言うのか？とドキドキするところなんだろうが、心当たりが全くないせいか緊張も何もない。知らない名前が出ても驚きはしないだろう。なんなら知らない名前が出ると思っているぐらいだ。

　それにもし知っている名前が出たところで力になれそうにない。だから、十南の彼氏が誰であろうとどうでもいいと言うのが本音。

「私の彼氏の名前は――」

　恥ずかしがって少しは頬を染めたらどうだと思いつつ、オレンジジュースが入ったグラスを口へ運ぶ。

「――伊東さん。伊東拓海さんです」

　その名に手が止まる。口に含んだオレンジジュースをゆっくりと飲み込み、聞いた名を恐る恐るオウム返し。

「……い、伊東拓海……」

「はい、伊東拓海さんです」